有名なRPG
連休明けでも学校はいつも通りであった。授業はしっかりと六時間目まである。下校する子ども達の頭上には普段と変わらず茜色の空があった。夕焼けの中、友達と帰る彼らはゴールデンウィークの話を交えつつもこの後どう遊ぶかについて語り合っている。早くも日常に気持ちが戻ってきているのだ。
莉奈も同様にこの後の予定を考えていた。信号の手前まで歩き、浩太の後ろ姿を見つける。
丁度信号が変わった。渡ろうと歩みを早める。浩太の横まで来て、追い抜かしてしまった。振り返るとまだ歩き出していない。
ぼーっと突っ立ていて、信号が変わったことに気がついていない浩太の手を引く。そのままズルズルと引きずっていった。
「うわっ、えっ? 莉奈、どしたの?」
「どうしたじゃないわよ。何で全然動かなかったのよ」
「あー、考え事しててさ」
「そんな考えこむことがあったの?」
莉奈は顔色を伺うように覗き込む。
「うん。ゲームのキャラ、どういう育て方をしようかって」
その答えに、ちょっと安心した様子を見せた。
「へえ、どんなゲームなの?」
「あの有名なRPGだよ。連休中に買ってもらったんだ」
「ああ、あれね。どれ買ったの? 一番新しいのだと、Ⅸ?」
「そう、それ」
「それならわたしも持ってるわ」
「あ、そうなんだ。もうクリアしてるの?」
「してるわよ」
「主人公の職業何にした?」
「わたしは賢者にしたわ。攻撃魔法も回復魔法も使えるし」
「賢者? そんな職業があるんだ」
「もしかしてまだ解放してない?」
「うん。どうやって職業増やすの?」
「クエスト受けるんだけどね……今、どこまで進んでいるのよ」
「ボスを四体たおしたとこあたりだったはず。昨日やっと転職ができるようになったんだよ」
「ああー、それならまだ大分かかるわね」
「ええーまじかよ」
「わたしこの後ひまだし、進めるの手伝おっか」
「あ、まじで。それなら、家来てくれる? 今日はおばあちゃんいるから、中入っていいし」
「めずらしいわね。じゃあ行くわ」
「おっけー。それじゃあ、ちょっとしたら来て。用意しとくから」
「分かったわ」
「それじゃ」
浩太は背を向けて去ろうとする。その背中に向けて、
「待って」
と声をかけた。
「どうしたの」
振り向いた浩太に、莉奈は手を出すように言う。浩太は言われた通りに手のひらを差し出した。
「ちょっと待ちなさい」
莉奈は肩紐を片側だけ外し、ランドセルを前面に持ってくると、ガサゴソと中を漁った。何かを掴むと、浩太の手の上に乗せる。
「それ、お土産だから。それじゃ、また後でね」
伝えるや否や歩き出す。ランドセルもちゃんと背負っていない状態のまま、さっさと行ってしまった。
「あ、ありがと……」
言う相手がいなくなってしまったが、浩太は口には出しておいた。手の中にはキーホルダーが光っていた。
後でちゃんとお礼を言おうと思いながら、浩太も家に帰った。
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