5.四葉
シロツメクサで花冠を作り、遊ぶ子供がいた。四葉のクローバーを探す子もいる。単管パイプの柵の内側、雑草だらけの土地。誰もが手入れを敬遠するそこは、下校途中の子供たちにとっては数少ない遊び場であった。季節の草花を探したり、冬になれば積もった雪で遊んだりと、一年を通して朝方と夕方ごろには小さな影が見える。
信号へと歩く莉奈の手にも四葉のクローバーが握られていた。押し花にして栞を作ろうかと考えながら手元のクローバーに目線をやって歩いていたが、信号が近づいてきたために顔を上げた。まだ変わる様子はない。その下では浩太が支柱に腰掛けて信号待ちの暇を潰していた。
「わっ!」
「うわっ!」
後ろから驚かす。浩太の肩がビクンと跳ね、次いでバランスを崩し不恰好な体勢で着地した。
「どう、驚いた?」
「当たり前だろ。ったく……」
「そんなところに座ってると危ないからね、注意よ注意」
「それでさらに危なくなったんだけど?」
「ふふっ、知らなーい」
浩太は言い返そうとしたが、莉奈の笑顔の前には何も言えなかった。何かを言ったところで無駄になるだけだと、長い付き合いで知っていたのだ。
「ほら、信号変わるぞ」
「あ、ほんとね。行きましょうか」
「でも、珍しいな。莉奈の方が遅いなんて」
「ああ、これ探してたのよ」
「四葉?」
「そうそう。丹生に連れられてね」
「そういえば学校でも探してたな」
「そうね。わたしも付き合わされたわ。『友達が四葉のクローバー持ったの』って言われたから、へぇ、そうなのって返したのよ。そしたら、『わたしも探すから莉奈もいっしょに行こ!』って連れ出されたわ」
「ははっ、すごいなあいつ」
「まあ、おかげでこれを見つけられたし。ちょうどしおりも欲しいと思ってたから」
「押し花にするのか。どうやってやるの?」
「前作った時は、キッチンペーパーと新聞紙ではさんだわ」
「割と簡単に作れるんだな」
「どう、探してやってみる?」
空き地を指差す莉奈。そこでは背の高い草がボウボウに茂っていた。
「いや、やめとく。草にさわるとなんか手が荒れるし」
「荒れるの?」
「かゆくなるんだよ」
「へぇー、不思議ね。今までもそうだったの?」
「うん。なんかかゆいなーって思ってたんだけど、この間病院行ったらアレルギーだってさ」
「え、雑草アレルギーってこと?」
「そうらしい」
「うわっ、大変ね。虫捕りとかできないじゃん」
「そんなにしないからいいんだけどね」
「男子って、よく虫捕りしてるイメージあるわ」
「そうかー? してる人あんまいないぞ」
「まあ、確かにそうかも。一年生とかが校庭でバッタ探してるのはよく見るけど、同じクラスの人がしてるのは見たことないわ」
「でしょ。子どもの遊びだよ、子どもの」
「わたしたちだって十分子どもじゃない」
莉奈がくすくすと笑う。
「いやでも、小一と小四、どっちがより子どもかで言ったら、小一じゃん」
「何よそのりくつ」
「それに俺ら今年、二分の一成人式やるし。大人の半分だよ」
「あぁー、そういえばそんなもの書いてあったわ。何するのかしら」
「さあ? 何すんだろ」
「成人式みたいなことするのかしらね」
「はかま着て暴れるの? 確かに、似合ってるかも」
「あー、それはそれで面白そうかも」
否定しなかった莉奈に浩太は若干引く。距離も少しとった。それを見て莉奈は、
「えー、してみたくない? 暴れる機会なんてそうそうないじゃん」
逆に浩太へと距離を詰める。やってみたいよね、と同意まで誘ってきた。ただ、態度では引いていても、やってみたいと思う心がどこかにはあるのも事実だった。だから否定しきれない。
「あー、うーん。まあ、したくなくはないけど」
「ほら、やっぱりしたいんじゃない」
同意が得られてご満悦の莉奈。浩太は押し切られる形となって、はぁとため息をついた。
「じゃあ、俺こっちだから」
「あ、そうね。ばいばい。また明日ね」
「うん、ばいばい」
手を振って別れる。ご機嫌な莉奈は浩太が見えなくなるまで手を振っていた。
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