4.クラブ
絹のような雲が薄く空を覆い、夕日を受けて紅や黄に彩られていた。朗らかな空気である。ひゅうと風が吹いた。草木がそよぐ。ざわざわと葉擦れの音がする。その中に、うわっという子供の声が混じった。手元を見るとたんぽぽの綿毛が舞っていた。ふわりふわりと頭上を漂っていたが、もう一度、ひゅうと風が鳴いたら手の届かない高さへと上っていってしまった。子供の手から、綿毛を失ったたんぽぽが離される。
「次のやつ探そっと」
子供は道路から離れ、草むらへと駆け込んでいった。
同じように落ち込んでいる男の子が一人。項垂れながら横断歩道を渡っていた。ただ、こちらは車が通り過ぎた後の風に持っていかれたのだが。
「ああー、飛んでっちゃった」
「そんな体の前にだしてるからよ。早めに吹いちゃえばよかったのに」
「こんなコンクリートだらけのところで飛ばしたら、わたげがかわいそうだろ」
「いいじゃない。どこで飛ばしてもいっしょよ」
「そう言うことじゃないんだよ。分かってないなあ」
「おこるわよ」
その言葉を発すると同時に、莉奈は隣に向けて足を踏み出していた。
「あぶなっ! もうおこってるじゃないか」
「あらごめん。無意識だったわ」
ふふ、と小さく笑った。
「無意識って……おっかねえなあ」
「へぇ、まだ言う?」
「いや、もう言わない、もう言わない」
「……で、そうね。浩太はクラブ何にするの?」
四年生からクラブ活動が始まる。それを楽しみにしている生徒は多かった。御多分に洩れず、浩太も莉奈もどれを選ぼうかとワクワクしていた。
「クラブねえ……まだ決めてないんだよなあ」
「サッカークラブはどうなの? サッカーよくやってるじゃない」
「うーん、最初の年はいいかなって」
浩太はサッカー少年団に入っているのだが、その中では決して上手いとはいえないレベルだった。さらに、同じクラスの大磯も一緒の団体に入っているのだが、そちらはAチームに参加しており、団体の練習でも顔を合わせることはほとんどなかった。大磯はクラブもサッカーに入るだろうと浩太は予想している。もし自分もそこに入ったら、勝ち目のない相手と一緒にプレーすることになってしまう。そこまでは考えてないにしろ、無意識のところで気が引けているのだ。
ただ、浩太は「最初の年は」と言った。ここには、来年までにもっと上手くなって、並び立てるようになってやろうという気概が込められていたのだった。
「そうね、確か五年生、六年生になった時にもまた選ぶんだったわね」
「そうそう。だから、今はいいかなって」
「なるほどね。じゃあ、どこにするの?」
「まだ決めてないって」
「そうじゃなくて。いいかなーって思ってるとこないの?」
「ああ、それなら陸上クラブとかドッジボールクラブとか、あと、マンガクラブも面白そうだった」
「ああー、マンガね。わたしもいいかなーとは思ってる。どう、入ってみる?」
「でもなー、かかなきゃいけないのがなあ……。絵、得意じゃないし」
「うそぉ、写生とか上手いじゃん」
「写生以外ができないんだよ。見ないとかけない」
「あ、そうなんだ。初めて知ったわ」
「だからなぁ、今のところだと……って、あ。分かれ道すぎてんじゃん」
二人とも話し込んでいたので、気づかぬうちに分かれ道を通り過ぎてしまっていた。
「やばい、この後水泳あるし……じゃね、また明日」
「あ、ちょっと」
時間を気にした浩太は振り返ることなく走り去ってしまった。
「最後、どこが良さそうって言ってたのよ」
莉奈もまた歩き出した。ちゃんと話を終えていないのでもやもやした気持ちを抱えたまま。
うーん、うーんと小首を傾げて帰っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます