差し金に違いない
「なーんて形で命を救われてね。それでもう、メロメロよ。
でも、無理もないと思わない? それまでずっと不幸の連続で恋の一つもしたことなかった
で、私も彼に心酔しきっちゃって、それからは何もかも捧げて奉仕したわよ。私が持ってるものは全て彼に捧げたの。
そう、全てね」
『全てね』って言った時、リデムはものすごく艶っぽく笑った。それで私も察しちゃった。自分の顔がみるみる熱くなるのが分かって思わず両手で押さえてた。
そんな私を見てリデムは悪戯っぽく笑った。それから今度はふわっと微笑んだ。優しくて綺麗で、女の私でも見惚れてしまう微笑みだった。微笑みながらリデムは言った。
「幸せだった。本当に幸せだったわよ。彼を愛して、彼に愛されてる実感があった。他にも私と同じように彼にメロメロになってた女の子も何人もいたし彼女達も私と同じようにしてたのは知ってたけど、そんなことはどうでもよかった。自分が彼に尽くせてるって思うだけで幸せだった」
そこまでまるで蕩けそうな惚気を発してたのが、だけど急に寂しそうな表情になった。『…え?』と私もハッとなってしまった。
「だけど、私は知ってしまったの。彼がどうして<勇者>になれたか。と言うか、<勇者とは何か?>っていうのを知ってしまったの。善神バーディナムの託宣を受けたことでね……だから私は彼を守るのよ。決して私のものにはならないけど、だからこそ守る。彼の望みに応えるの。今は、それが私の喜び……」
寂しそうに、でもすごく綺麗な笑顔でリデムはそう言った。
「じゃあ、私はそろそろ行くね。無理強いはしないけど、あなたも彼を守ってほしい。彼には私達が必要なの」
と言い残して、彼女は自分の部屋の方へと行ってしまった。
私は、彼女がいったい何を言いたかったのか、結局何も分からずじまいだった。
『勇者…? <勇者とは何か?>って、なに……?』
そうだよ。彼女は思わせぶりなことを言うだけ言って、実際には肝心なことは何一つ言わなかった。<勇者とは何か?>って何のこと? はっきり教えてよ、気になるじゃない…!
でもそう思った時、ハッとなった。これってもしかして、ドゥケのことを意識させる為の作戦か何か!? って。
そうだよ。大事なことならあんな曖昧な言い方しないではっきり言えばいいのに、わざわざあんな風な気になる感じにしたのって、きっとそういうことに違いない…!
はあ、危ない危ない! もう少しで策略にハマってしまうところだった。
これもきっと、ドゥケの差し金に違いないんだ…!
最低!
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