勇者談義

 リデムの言ったことは、きっと、ドゥケに対して私の気を引かせる為に仕組まれたことに違いないと私は思ってた。だから気にしないようにした。気にしないようにしたのに、私の頭から離れてくれなかった。

 ああもう…!

 すっきりしない気分に頭をがりがり掻いてしまう。

 <勇者とは何か?>

 その言葉が頭から離れない。勇者…そういえば勇者って何だろう? 騎士とか戦士とかという区別じゃなく、とても強い力を持ち勇気に溢れ、邪を祓って光をもたらす者…って感じだったよね、確か。

 でもリデムの言い方だと、それ以外に何か<勇者>が他と違うものを持ってるみたいな印象だよね。

 部屋に戻ると、そこには同室の団員、アリエータだけがいた。彼女は鏡の前で髪を梳きながら、「おかえり」と声を掛けてくれた。同室の団員の中では一番年齢が私に近く、騎士になってからの時間もそんなに違わないから、他の二人、ソーニャやテルニナに比べればまだ話しやすい相手だった。だからか、つい、

「ねえ、勇者って何か知ってる?」

 と尋ねてしまった。

「…へ?」

 って感じで彼女は振り向いて、私を見た。呆気に取られてる表情だった。

「勇者って、ドゥケ様みたいな人のことでしょ? 聡明で才気に溢れて闇を払う圧倒的な力を持った素晴らしい方だよね」

「いや、だからそういうのじゃなくて…!」

 私がそう言った時、背後にも気配があった。ソーニャとテルニナが戻ってきたんだ。二人は私より二年以上先輩で、キャリアだけならまだ若手だけど、正直、気軽に話しかける感じの相手じゃなかった。

「なに? 勇者談義? ようやくあなたもドゥケ様のことが気になりだしたの?」

 ソーニャがにやりって感じで笑いながらそう言ってきた。

「あ…え、と…その……」

 どう言っていいのか分からなくて言葉に詰まる。そんな私に、テルニナが肩をすくめて「やれやれ」って感じで言った。

「あんたも相当頑固者ね。素直になれば楽になれるのにさ。ここにいる女の子はみんな、ドゥケ様のことを尊敬してるのよ? 身も心も捧げてるの。だから私達は戦う勇気が持てる。魔物にも恐れずに立ち向かうことができる。ドゥケ様に従ってればいいんだよ。そうすれば間違いないんだから」

 迷いのない真っ直ぐな目で、テルニナが言った。でも、私にはそれが分からない。それが分からないんだよ。どうしてみんな、あんな奴にそこまで心酔できるの?

 だけどはっきりとそれは口にできなくて、私は俯いてしまった。みんながあいつのことをそこまで想ってるのなら、私が変なことを口走ればきっと立場が悪くなる。下手をしたら追い出されるかもしれない。


 でも…でも……!


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