31 エピローグ 回想



 それは、探検家の少女や赤子がこのダンジョンにやってくる前の出来事だった。


 私と王子の二人しかいなかった頃。


 王子は、時々日用品や食料品を補充するために、出かける事があった。


 だから私は、王子がいない間に、何度かこのダンジョンから抜け出そうとした。


 その頃の私はそう考えるのが自然だった。


 ダンジョンの難易度は知りつつも、閉じ込められている状況から抜け出したかった私は、自分の実力を知りつつもついつい外に出てしまった。


 当然返り討ちにあった。


 絶望した。

 死にかけた。


 何体もの狂暴なモンスターに囲まれて、攻撃されようとしているころだった。


 けれど、私は攻撃されなかった。


 戻ってきた、王子がかばってくれたからだ。


 モンスターをやっつけた王子は、血まみれになってまで手を差し伸べて、心配してきた。


「大丈夫かい?」


 王子は言った。


「好きな人を守ること、理由がいるのかな」


 過程もやり方もおかしかったけれど、確かにその気持ちだけは本物だったのだろう。


 城で出会う前。

 人生の中で、王子と出会ったことはない。

 そのはずだ。


 王子を暗殺する日、あの日に初めて会って、なぜか気に入られて。

 そこからスタートした。


 こちらから与えるような物はなかった。


 なのに、愛は続いていた。


 ただ一方的に愛をささやかれているだけだった。


 けれど、いつまでも大事にされた。


「希望だから」


 と王子は言った。


「君は、僕の、希望だった」


 王子は私の手を引いて、ダンジョンの外まで連れていった。






 その理由が分かったのは、王子が死ぬ間際の事だ。


 処刑場にたどり着いた時の事。

 血にまみれた王子はかすれた声で話す。


「王家には、異端の王子が生まれた時、民の為を思って殺す決まりがあった。


 僕は、生まれた時から変わっていた。きっとずっとこれからも普通になる事はない。


 だから、残りの日数、絶望して生きるくらいなら、すぐにでも死んでしまいたいと思っていた。


 僕は異端だ。


 でもそれでも、心の一部まではそうじゃなかったようだ。


 でも、そんな僕の目の前に君があらわれた時、僕は希望をもらったんだ。


 これで、やっと死ねる。

 苦しみが、絶望が終わる。


 僕にとって君は救世主だった。


 そしたら、とても君が輝いていてみえて、いとおしく思えてきた」


 それは錯覚の恋なのかもしれない。


 その恋の成り行きは、感情の発露は、とても普通ではなかった。


 だが、もしかしたら普通でない王子にとって、それこそが恋と呼べるものだったのかもしれない。


 私には分からない事だった。


 だが、王子が真剣であるという事だけ分かった。


「最後にわがままをきいてくれないか。僕を夫と認めてほしい」


 私はそれに、頷いた。



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