25 転げ落ちる坂道の手前



 赤子が熱を出した。


 だから、薬を買いに外に出る事にした。


 探検家の少女におもりをまかせて、二人で出る。


 王子は最初一人でいくつもりだったらしいけど、世間知らずっぽいから不安があった。


 だから、無理を言って同行したのだった。


 竜になった王子の背中で、強風に耐える。


 町にたどり着いて薬を購入して一安心した。


 しかし、王子が竜から人に代わったところを誰かに見られたらしい。


 多くの者達に囲まれて牢屋に入れられてしまった。


 牢屋に入れられる事はこれまでに何度かあった。


 暗殺のターゲットによっては、表の世界で生活していない事があったからだ。


 なれた事なのに、なぜだかとても久しぶりのように感じた。


 しかしこのままゆっくりしているわけにはいかない。


「あの赤ん坊が心配だ。早く薬を届けてやらないと」


 王子が囮になって、私だけ逃げる事になった。


 暴れる王子をおいて、逃げる。


 竜の姿で強行突破し、二人一緒に逃げると、万が一にでも人に追いかけられる可能性があった。


 ダンジョンのある場所がばれたらまずい。


 だから、私一人で逃げれば、逃げ切れる可能性が高かった。


 以前の王子なら、私を一人にすることはなかった。


 けれど、やはり血がつながった弟の事が心配だったのだろう。


 私は王子の思いを無駄にしないために逃げた。


 王子は竜だ。

 だからそう簡単には死なない。


 そう言い聞かせて。


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