24 えっ母になれ?



 母になった。


 妻になったり、姫になったり、身分違いの恋に悩む使用人になったり、連れ合いになったり、色々カテゴリが変わったが、まさか母になるとは思わなかった。


 王子が傷を負って帰ってきた。

 

 小さな男の子を連れて。


 私達は子供の世話をしなければなくなった。


 人を殺す訓練を受けている私は、生かす訓練などした事が無い。


 応急手当の方法は知っているが、それは傷一つない赤子には必要ない。


 抱っこの仕方から、ミルクをのませる方法、入浴の方法をめぐって右往左往した。


「おぎゃぁぁぁ! おぎゃぁぁぁ!」

「今、なんで泣いてるんだ! ご飯か、おしめか!」

「あー、それはおしめの方だよ。なつかしいな。探検家になる前、弟の世話してた頃を思い出すよ」

「こうしていると、僕達家族みたいだね」


 王子と二人で、ダンジョンにこもっていた頃と比べると、一気に忙しくなった。

 

 子供の世話に慣れているという探検家の少女の手を借りて、やっとどうにかなった。


 赤子の世話にかかりきりになる王子の隙をつけば、もしかしたら何とか逃げられたかもしれない。


 けれど、私はそうしなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る