11 間違った権力の使い方



 王の伴侶が決まったらしい。

 夜中に寝所にもぐりこんできた暗殺者になった。


 それを聞いた城の者達は、おそらく普通に困惑した。


 そして、普通に王子に向かって事の次第を問いただしただろう。


 ポッと出の女、どこから生まれたものか分からない人間を妃にしようというのだから、正気を疑うのが普通。


 万が一でも、周りの人もおかしかったらどうしようかと思ったが、他の人間は普通にまともだった。良かった。


 思わず暗殺者らしからぬ思いを抱いてしまった。


 いくら暗殺者でも、頭のおかしい人間(複数)に、今まで自分の国を動かされていたのではないかと思うと、気が気ではない。


 王子の元にいるよりそんな普通の人間の元にいるよう方がましだ。


 これ以上王子と共にいると、私までおかしくなりそうだ。


 だから、もう正直に罪を告白して、この王子から引き離してもらおうと思ったのだが(当然捕まった後は脱獄する。国のトップに歯向かうとなるとおそらく死刑は確実だからだ)。


「妻はちょっと緊張しているんですよ。ありもしない事をたまに言ってしまうのです」


 などと言って、よく分からない女=暗殺者説もみ消してしまった。


 思考はおかしいのに、無駄に能力が高かった。


 それでも、強く文句を言ってくる根性のある人間はいた。


 しかし、そんな時は王子は、瞳に闇をたたえて「ふぅん、君には娘さんがいたっけ。可愛いお子さんだよね。そんな子が事故にあったら、大変だよね」などと言う。


 すると、意見した人間はみな真っ青になって、ケツをまくって逃げ出す。


 そんなお話という名の脅迫を繰り返すうちに、怖がって誰も意見しなくなった。


 私が絶対絶命だった。

 四面楚歌だ


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る