10 お姫様になれ?



 宝物庫の中を、王子は迷いなく歩いていく。

 そして、しっかりとした箱に入った何かを取り出していた。


 王子はにっこりと笑顔を浮かべて、その宝物の一つを私の頭にのせる。


 罪人につける呪のアイテムとかだろうか?


 そんなものは実際に存在しないが、王子の姿を見た後はありえなく無いように思えてきた。


 私は身構えた。


 私に惚れたふりをして、罠にかけようという魂胆だろうか。


 けれど、王子の行動はまたしても私の予想の、百八十度正反対だった。


「これは王子の伴侶となる者に与えられる。ティアラだよ」

「!!!!!」

「つけたら取れない。体の中に吸収されるからね」

「?????」

「ティアラを体内に宿した者は、妃である証拠に特殊な紋様が体にうかぶんだ。ほらみてごらん、手のひらに可愛い模様が浮かんでいるだろう」

「!? !? !?」


 手のひらに国の旗に書かれている模様、太陽を模した紋様が浮かび上がっていた。


 いくら場慣れしている暗殺者でも、思考停止してしまう事がある。


 暗殺対象がすでに別の暗殺者に殺されていたり、暗殺対象がなぜか自分で死んでいたり。


 だが、ここまでおかしな事は今までなかった。


 たぶん生きてきた中で一番だろう。


 理解が追いつかなかった。


 気が付くと、頭の上につけられたティアラは、いつの間にかなくなっていた。


 頭にあった。わずかな重みが消えている。


 体の中に吸収?

 されたようだ?


 で、その代わりに手のひらにはこの国の旗と同じ模様が。


「パレードは盛大に行うと約束しよう。きっと皆祝福してくれるさ」


 しかも、暗殺者に向かって日の当たるところに出ろという。


 その瞬間、王子の姿が地獄の底からはるばるやってきた死神に見えた。


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