08 王子サマと楽しいお散歩



 王子の顔は国民にはあまり知られていない。

 人前に出てきて公務することがほとんどなかったからだ。


 その理由が、暗殺を失敗した今日、分かってしまった。


 竜になるような得体のしれない王子を、外に出すわけにはいかないという事だったのだろう。


 しかし、分かったところでその事実が自分を助けてくれるはずもない。


 王子の境遇に同情しても、悲しんで見せても、無駄だった。


「さてと、そろそろ時間かな。お散歩の時間だよ」

「はぁ?」


 王子は本格的に私をペット扱いするつもりのようだった。(嫁にするとか言ってるくせに)。


 暗殺者をペット、普通の使用人が知ったら笑えない状況だ。


 これまでこの部屋に使用人が入ってきたことはないが、他の者にはどう説明するつもりなのだろう。


「行きたいところはないかな?」


 首を振る。

 この状況で。私が生きたがる所は外だけだ。


 といいわけで、手錠付きの嫁が散歩する時間になった。


 自分で何言ってるのか分からなくなってきたが、現実がこの通りだからどうしよもない。


 王子が小さなベルを鳴らして使用人を呼ぶ。


 どこからかやってきた女性の使用人が、扉を開けて目を丸くした。


 そして、王子と私の顔を三度見した後で、困惑の表情になる。


「あの、王子。こちらの方は?」

「何言ってるんだい? こんな時間に僕の部屋にいるんだ。決まっているじゃないか。僕の嫁だ」

「え? え?」


 当然、使用人はひたすら困惑した目でこちらをみてくる。


 自分が知らない間に素性の知らない女が、王子の部屋に入っていた。


 しかも、自分達が仕えている王が不審者(嫁)とお散歩(ただし手錠付き)しようしているのだから。


 今ここで、不審者ありと叫ばれていないのが不思議なほどだ。


 そうしないのは王子の態度があまりにも「堂々とし過ぎているから」か。


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