第9話 ボクたちがお世話します


              ☆☆☆その①☆☆☆


「で、どうするの?」

「しかたありませんわ。スーツを着たところで、また破られてしまうでしょうから」

 ワープ航法を使えない地球までの三日間、二人は男子学生たちの安全を第一に考えて行動しなくてはならない。

 なので二人も、スーツを身に着けず、裸のまま過ごす事に決まってしまった。

 何と言っても、スーツの予備はそれぞれ一着ずつしか、用意されていないのである。

 もしそれまで引き裂かれでもしたら、地球に帰っても、船から出られなくなってしまう。

 本部に登庁した時の私服も積んであるけど、それだって着ていたら破られてしまうだろうから、同じことだ。

 なので現在のマコトとユキは、破壊されなかったグローブとブーツ、首のセンサーチョーカーなどをそのままに、ボディ部分は全て剥き出し。

 深い谷間を見せて張りのある爆乳も、丸く大きなお尻も、前も、隠すものは何一つとして無い。

「なんだろう…妙な背徳感を感じるよ」

 自分たち専用のスペースクルーザー内とはいえ、裸でウロウロするなんて、何だか恥ずかしいマコト。

 対してユキは、すぐに慣れた様子。

「バカンスに来たと思えば、良いのですわ」

 お姫様のような雰囲気のうさ耳少女が、裸の肢体をブリッジのシートで、くつろがせている。

 そんな姿は、不思議なミスマッチの優雅な退屈を思わせた。

「ま…誰が見ているわけでも ないけどね」

 王子様のような美顔を羞恥と軽い憂鬱で曇らせるねこ耳少女も、平和な行程の中、シートに身体を預ける以外、する事もない。

 モニターで学生たちの様子を注視してはいるけれど、先ほど飲ませた抗生カプセルのおかげで、淫獣化は成りを潜めてている。

「それにしても…」


 五人の男子学生をコンテナに連れ戻した後にすぐ、抗生カプセルを全員に飲ませた。

 淫獣化の反動か、みな身体に力が入らず、横になったら自力で起き上がる事も困難だった様子。

 なので、まずは裸のマコトが男子学生を膝枕して、裸のユキがカプセルと水を飲ませる事になったのだ。

「はい、まずはあなたからです。みなさん、順番に投与しますから」

「「「「「はぃ…ぅぐぐ…」」」」」

 横に並べた男子たちに、順番に、交代で、膝枕をして薬を投与。

 膝枕の係と投与の係を交代制にしたのは、二人とも、どちらも出来るように慣れる、という意味もあった。

 マコトが少年の頭を膝に乗せると、少年の視界は双つの爆乳で占められて、やはり爆乳も剥き出しなユキの手でカプセルを含まされる。

 そしてマコトとユキが交代しながら、次の男子へ。

「さ、次はあなたですわ」

 学生たちは横になっているから、二人は正座のような姿勢で投与にあたる。

 その間、学生たちに裸を隠しては、また淫獣化が発症してしまうのだ。

 なので、膝枕の男子学生にはそれぞれマコトたちの爆乳が、それ以外の男子たちにはユキたちの安産型な裸のヒップが、間近で鑑賞される事となっていた。

「はあぁ…ぐふぅ…」

 薬と水を飲ませてくれるマコトやユキの双乳は、腕や身体の動きに合わせてタプっと柔らかい張りを見せつつ、弾んで変形。

 正座に爪先立ちで突き出されるお尻は、姿勢の変化に合わせてプルプルと、上下左右に優しく揺れ動く。


 二人の柔肌を見つめながら、男子学生たちは、淫獣化現象と戦っている。

 それが解るから、二人はどんなに恥ずかしくても、男子たちを責める気持ちにはなれなかった。


              ☆☆☆その②☆☆☆


「男子って、何か 凄いね」

「心優しいのだと、私は思いますわ」

「まあね…」

 食事は一日三回。

 裸のままコンテナに向かい、積んである食事を温めて差し入れ。

 流動食なのでストローを口に渡して、飲み終わったら回収。

 そしてまた、抗生カプセルを飲ませる。

 食事も膝枕も投与も交代制だから、二人とも、男子たちに色々と見られている事が、視線の熱さで実感できてしまっていた。

(これも…命を守る戦いなんだ…)

 見られている恥ずかしさを払拭しようと、特にマコトは、使命感を意識する。

 船内時計で夕食と投与の後は、男子たちの身体を洗浄してあげる事も、大切な医療行為であった。

「さ、立てますか?」

「は、はぃ…すみません…」

 左右から裸の少女捜査官たちに支えられながら、少しでも迷惑にならないようにと、弱々しくも頑張って立ち上がる男子学生は、二人よりも背が高い。

 脱衣スペースで男子生徒を裸にすると、簡易シャワー室に連れて行って、頭の天辺から足のつま先まで全身くまなく、ソープとシャワーで綺麗に洗浄。

 グローブを着けたままでは中が濡れて気持ち悪いので、二人は初日の夜から、ブーツもグローブも外した、一見するとチョーカーだけの裸体である。

 それは、医療現場で患者の身体を洗浄する時には、極薄スキンタオルを使用するのが常識だからだ。

 極薄スキンタオルは、半世紀ほど前に開発された、医療道具の一つ。

 スプレータイプの液体を肘から先に吹きかけると、一秒と待たず、スキンのように極薄い透明な手袋になるという、特殊な素材である。

 手袋は、人の肌にとって一番肌触りの優しい赤ちゃんの頬よりも、更にきめ細かくてスベスベ。

 このスキンタオルなら、通常の医療用タオルで肌が荒れる患者さんも困らないし、医者としても触診できるので、大変に重宝されている。

 それでいて石鹸の泡立ちも良く、使用後は手袋として外して廃棄できるので、感染症の患者さんに対しても応用が利くのである。

「はい、頭を乗せてくださいな」

 ユキの膝枕で、頭髪を泡まみれで洗われる間、マコトの泡手で全身を洗われる。

 だたでさえ敏感な年ごろの少年の身体を、スキンタオル越しとはいえ女性の優しいタッチで洗われてしまうと、どうしたって健康な反応が起こったりもする。

「あ、あの…ぐくく…」

 恥ずかしさと申し訳なさが混同する男子たちは、消え入りそうな声で、力の入らない身体をよじったりした。

(…男性も、恥ずかしがったりするんだ)

(–されるのですわね)

 とか、二人とも初めて知ったり。

 男子が恥ずかしがっていると、逆に不思議な余裕も、僅かに湧いてくるマコトたちである。

「大丈夫ですよ。今はボクたちに 任せてください」

 言いながら、二人だって一般男子の裸体を見るのは初めてと言っていいし、ましてや触れるなんて、完全に初めてだ。

 イカれた犯罪者のイカれた全身タトゥーとか、ヤケになった犯罪者の全裸突撃とか、どうかしている男たちの裸は、何度か見ている。

 それでも慣れる事はなかなかないし、しかし羞恥と罪悪感を普通に感じている年下男子たちの姿には、何だか年上としての庇護欲的な強さが、今の二人には発揮されつつあった。

「それじゃ、少し我慢してくださいね」

 きっと男子たちにとっても恥ずかしいであろう場所を洗う時は、一言だけことわってから、なるべくさり気なく洗浄を済ませる。

 それでも敏感な個所らしく、男子たちは恥ずかしそうに顔を赤くして、何かに耐えている様子だ。

 こういう時の、男子たちの素直な視線も、肌で感じられた。

 マコトたちに恥ずかしい想いはさせまいと、頑張って理性で視線を逸らそうとするものの、魅惑的な女性たちの裸を目の前にしては、年頃な男子たちとして興味を引かれてしまうのも、無理はない。

 男子たちの意識は特に、胸の桃色な先端やお尻の谷間、膝枕の時の温かい内腿などへと、強く集中している様子だ。

 こっそりだけどハッキリと解る本能からの視線に、二人としても「見ないでください」とか言いたいものの、必死に戦っている少年たちの意思も解るので、どうしても言いづらいと言うか、言えなかった。

 そして二人も、年下男子の裸体をスキンタオル越しの掌で洗浄しながら、不思議なドキドキを感じてもいる。

(…男子の身体って…)

(こんな、なのですか…)

 触れる肌は外見以上に筋肉質で、肩幅も広くてガッシリしている。

 特に、本人の羞恥心にかまわず健康な反応を示している男性の部分は、有機的でありながらまるで焼けたエンジンパイプのように、熱くて硬い。

((…!))

 知らない感触を教えられながら、二人は内なる未知の鼓動を、強く感じていたりもした。


              ☆☆☆その③☆☆☆


「さ、身体を拭いますわ」

 それでも、年下の少年たちを相手にこちらが恥ずかしがっていたら、男子たちも戸惑うだろうし、不安にもさせてしまうだろう。

 プロとして、毅然と対応して見せてはいるものの、ねこ耳少女もうさ耳少女も、恥ずかしさで、ケモ耳がピンと立たずに伏せてしまっていた。

 そんな感じで、隅々まで洗浄すると身体を拭って着衣をさせて、全員を済ませると就寝をさせる。

 二人はそのまま、スキンタオルを外してコンテナのシャワーで自分たちの汗も流して、一日の治療行為が無事に終わるのだ。

「ふぅ…宇宙の道中でシャワーが浴びられるのは 助かるね」

 大型の客船でもない限り、宇宙船にシャワーなんて装備されていないから、女子としては浴びられるだけでも嬉しい。

 シャワーの後でも、二人は裸体のまま、ブリッジに戻った。

 シートに裸のお尻を降ろしながら、フと思う。

「この生活習慣に慣れたら 困るね」

 同じく裸身でくつろぐユキが、イタズラっぽく微笑んで返す。

「んー…寮の自室でしたら、私たちだけですし ありでしょうか?」

 と、冗談だか本気だかわからない、お姫様の悪戯笑顔が眩しい。

 こうして、二人は裸のまま宇宙船での三日間を過ごし、地球本星へと帰還した。


「到着しましたわ」

 途中でのアクシデントもなく、航行日数としては三日目の午後。

「こちら、地球連邦特殊捜査官–」

 モニター通信で入星ステーションにコンタクトを取ると、既にランドホーリーから超空間通信での報告が届いていたらしく、船名だけでドッキングの許可がおりた。

『こちら 地球惑星 入星ステーションより返信。船名 ホワイト・フロール号 かくにひっ–っ!』

 モニターに映った男性の通信係が、顔を真っ赤にして慌てる。

「? どうかしま–ああっ!」

 全裸での治療行為に慣れてしまっていた二人は、裸のまま、モニター通信を開いてしまっていた。

「きゃああっ!」

『すすっ–すみませんっ!』

 二人の悲鳴に、通信を受け取った男性の方が詫びてしまう。

 こうして、男子学生の搬送任務は無事に終了した。

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