第8話 男子学生 淫獣化!


              ☆☆☆その①☆☆☆


「何っ!?」

 モニターの少年たちを注視すると、みなノロノロと起き上がり、獣のような前屈みとなって、低い声で唸っている。

「発症が発症してしまいましたわ!」

 画面の体温センサーから、ユキがそう判断をした。

 うさ耳少女が、預かっていた抑制薬のパックを手に、ねこ耳少女が防衛用にと麻酔弾を込めたハンドガンを手にして、ブリッジからカーゴルームへと駆け出す。

 カーゴとの接続ハッチに到着をすると、扉の向こうからガンガンと、強く叩く音がした。

「男子生徒の方たち、お肌の色が氷のようですわ」

 手首の簡易モニターで確認するに、症状が進んで、体表が硬化し始めているようだ。

 いかな怪力といえど、レーザーバズーカでも破壊出来ない接続ハッチを叩き壊す事は、不可能だろう。

 けれどこのまま放置していたら、男子生徒たちは数時間と待たず症状に脳まで侵されて、過度な興奮で憤死してしまう。

 時間の猶予はない。

 マコトが、ハッチの開閉ボタンに指をかける。

「とにかく、開けたらボクが男子たちを引き付けるから、ユキは後ろからタイミングを計って!」

「了解ですわ!」

 ゆるふわガールがハッチの影に身を潜め、ショートカットガールがハッチをオープン。

 シュっと軽い音を立てて、少年たちとの壁がなくなると、目の前には男子たちが。

「みんな、大人しくしてください!」

 油断なくハンドガンを構えるマコトに対して、しかし年下少年たちはハッチも狭しと、一斉に溢れ出て来た。

「「「グワアアアアアアアっ!」」」

「!」

 男子たちはみな青い肌に変色し、白目を剥いて、開いた口からは涎を垂れさせている。

 全身の筋肉は盛り上がりを見せていて、医師の説明を思い出すと、症状の初期段階だと解った。

 武器を持たない一般人で、しかも背は高いとはいえ年下の少年たちを相手に、マコトは判断が一瞬、遅れてしまう。

 白目を剥いた少年たちの三人が、マコトの正面から左右へと素早く回り込み、距離を取って得物の隙を伺った。

 その動きは、ライオンなどの肉食獣を連想させる。

 まさしく「淫獣変化(仮)」の名に恥じぬ身体能力。

 マコトはあっさりと、三人の淫獣少年たちに取り囲まれてしまった。

「く…みんな…!」

 銃の力を知っているだけに、野生の動物よりも隙が無い。

「グアアっ!」

 背後から襲ってきた少年を、マコトは訓練と実戦経験による先読みで咄嗟に前転をして避けて、床にお尻を着いたままの姿勢でハンドガンを向ける。

「大人しくしないと、撃ちます!」

「ガルルルルっ!」

 警告の言葉も、症状発祥の患者たちには届かない様子だ。

 正面に位置していた淫獣少年が、尻もち姿勢のマコトへと襲い掛かってきた。

「ガウウウウっ!」

「ごめんなさいっ!」

 正当防衛で、しかも麻酔弾とはいえ、一般人を撃つのは心が痛む。

 それでも、少年たちの為にも撃ち出した麻酔弾は、硬化した青色の肌には傷一つ付けられず、カチんと弾かれてしまった。

「そんなっ–」

「きゃあぁっ!」

 背後からユキの悲鳴が聞こえて、振り返ると、ゆるふわガールは二人の少年に前後から挟まれていた。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 抱えていた薬品のパックは叩き落され、スーツのトップを胸元から、ボトムをお尻の方から掴まれ、今にも引き裂かれそう。

「ユキっ! あなたたちっ、ユキから離れなさいっ!」

 言ったそばから、うさ耳捜査官のスーツが、前後からバリリっと引き裂かれてしまった。

「いやあああっ!」

 レーザーやヒートガンでもなければ破損しない特殊スーツが、腕力だけで破壊される。

 思わず屈み込むユキの、大きな双乳や見事に発達したお尻が、淫獣少年たちの目に晒されてしまった。

「グルルルルっ!」

 更に、パートナーの身を案じるねこ耳捜査官は、その隙を突かれるように背後から襲ってきた少年によって、ガンベルトを残したままスーツだけを上下とも、一度に引き裂かれてしまう。

「ああっ!」

 衝撃で、手にしていたハンドガンがこぼれ落ちる。

 ボーイッシュガールの爆乳が、丸い巨尻が、淫獣化した男子たちの目の前で、剥き出しにされてしまった。

 このままでは、自分もユキも、どんな目に遭わされるか。

 しかも最悪、理性の無い淫獣たちによって宇宙船が内部から破壊されて、全滅。

 という可能性まで、考えられる。

 マコトは、ユキや少年たちを護るためにも、非常な決意をしなければならなかった。

「わ、悪いですけど!」

 残された腰のヒートガンを抜きながら、出力を、内壁を貫通するギリギリに調整して、少年に向けた瞬間。

「マコトっ、いけませんわっ!」

 ユキの声が届いた。

「ユキっ–え…?」

 パートナーを見ると、淫獣少年二人に前後から挟まれながら、傷一つなく立ち上がっている。

 ハっとなって、マコトが相手をしていた三人の少年を見ると、やはり取り囲んだまま、襲い掛かってくる様子はない。

 五人とも、前屈みで二人の裸を見ながら、ハアハアと激しく息を吐いているだけ。

 しかも青かった肌は元通りの肌色に戻りつつあり、白目を剥いていて両目は、黒い瞳が意識を感じさせていた。

「……どういう、こと…?」

 考えながら、思わずバストを隠したら。

「っグアアアアっ!」

 正面の少年がまた、淫獣変化を見せる。

「マコト、隠してはいけないのですわ!」

「…え?」

 医師の説明を、ユキはマコトよりも早く思い出したらしい。

 マコトは背後から、ユキにバンザイをさせられるように両腕を上げられて爆乳をタプんと晒されると、少年たちの淫獣化は、また収まる。

「お医者様が仰っていた通りですわ。私たち女性の裸体を見ている間は、男子生徒たちの淫獣化は抑制される。という事なのですわ」

「えぇ…?」

 結構、命がけの悲壮な覚悟で対峙した危機なのに、本当にそんな事で静まるなんて。

 唖然とするマコトに比して、ユキは魅惑的な全裸を隠す事なく、男子生徒たちへと近づいてゆく。

「あなたたち、私たちのこと おわかりになりまして?」

「は…はぃ…わかり、ます…」

 辛そうだけど、ハッキリと意識が伝わってきた。

「ご…ごめん なさぃ…」

 淫獣化の症状とはいえ、二人に迷惑をかけて怖い想いをさせてしまった事を、少年たちは苦しみの中で詫びている。

 マコトもユキも、少年たちを責める気には、なれなかった。


「…とにかく あなたがたはカーゴに戻って、横になってくださいな。これから、抑制薬を投与いたしますので」

「「「「「はぃ…」」」」」

 五人の少年たちは、前後を固める二人の裸体に視線をクギヅケにされながら、カーゴルームへと戻っていった。

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