第7話 搬送任務
☆☆☆その①☆☆☆
出発前に、コンテナには五日分の食料や必要な水などを、人数分だけ搭載。
女性の医療スタッフから、二人は地球に到着するまでの、医療レクチャーも受ける。
「患者の入浴は一日一回。食事は朝昼晩で一日三回、食べさせてください。食事が終わったらその都度、この抗生カプセルを投与してください」
抗生カプセルとは、この「淫獣変化(仮)」の症状の進行を一時的に遅らせる薬品なのだとか。
「コンテナ内部のカメラで常にチェックされてますが、患者の体温が異様に上昇したり、また肌の色が青く変色を始めたら、症状の現れだと思っていただいて結構です。カメラにも、その為の体温や色変化のセンサーを搭載してあります」
学生たちの体温が急上昇したり、肌が青くなり始めたら、カメラがとらえて、ブリッジにいるマコトたちへと警報を鳴らす。
「その際にこそ、お二人の出番です」
真面目な顔で、女性スタッフが告げる内容は、なんとなくわかっている。
「えっと…裸になって、男子たちに身体を見せる…でしたよね…」
「はい! お恥ずかしいのは解りますが、事は患者の命に係わる重大事案ですのでっ! 胸やお尻を隠したりされると、患者の症状はより進行してしまいますのでっ! 極力隠さず、平然と医療行為を進めてください!」
大真面目に言っているのは、やはり医療従事者だからなのだろう。
燃える使命感だ。
ランドホーリーの医療スタッフは、人数的にも余裕があまりなく、二人に任される医療行為はさほど難しいわけでもない。
しかも二人は捜査官の訓練として、それなりの救助訓練も受けている身である。
いわゆる、食事を摂らせて薬を与えるだけなのだから、医療行為そのものは、聞けば素人でも出来るレベル。
薬品投与も注射ではなくカプセルを飲ませるだけなので、二人が任される事になった。
「…了解しました…」
「…了解いたしました…」
白鳥のお腹に、五人の学生を収めたコンテナが接続されて、娯楽の惑星ランドホーリーから出発。
岩だらけの大地から飛び立って、大気圏を抜けて入星ステーションをパスして、いよいよ地球へ向かって、超々光速度常態航行を開始した。
「ワープは使えないんだよね?」
「そう仰っておりましたわ。片道三日…何もなければ、良いのですけれど」
ついさっき、隠れていたテロリストを退治したばかりだし、外的要因での緊急事態は考えにくい。
「とにかく、あの男子たちを無事に親元まで届けないと ね」
「モニターの様子ですと、みなさん 大人しくされてますわ」
大きな正面モニターの一角に、コンテナの様子が映し出されていた。
☆☆☆その②☆☆☆
コンテナは、五人の学生たちが寝泊まりしている大部屋と、小さなトイレルーム、広いとは言えないシャワールームと、食料などのカーゴスペースで出来ている。
姿勢制御用のバーニアは、万が一にも母船から離れてしまった時の緊急用だけど、現状では使用する可能性は低いだろう。
コンテナには窓があって、宇宙を眺められるようになってはいるけれど、現在、落ち込み真っただ中な男子たちは、そんな気分でもないらしい。
みんなゴロりと転がって、しかし暫くすると、何やら会話を始めた様子だ。
(…男子って、何を話してるのかな…)
なんとなく気になって、マコトがマイクの感度を上げてみる。
『……さか、こんな事になるなんてなぁ…』
『帰ったら 母ちゃんに怒られるぞ』
今回の事態を後悔したり、親に叱られる事を心配している。
「…意外と、可愛いところ あるんだね」
まあ反省しているし、自分たちが口を挟むような事案でもないか。
と思って、患者の安否を見逃さないという理由でも、モニターを視聴し続ける二人。
『でもさぁ、噂のホワイト・フロールさんたちに助けられるかと、俺たち ラッキーだよな!』
『ああ。なんかさ、映像で見るよりも すっげー綺麗だったしさー』
「…ふふ…」
そういわれると、悪い気はしない。
しかも「テビル・シスターズ」だの「ヘル・ビッチーズ」だのという嬉しくもない仇名ではなく、ちゃんと正式名で呼んでいる。
マコトもユキも、年下の男子ってそれはそれで可愛い。とか思う。
『特にあのおっぱい! でかくてさ~。おれ谷間とか、直で見たの初めてだよ!』
『俺はあのお尻だな! Tバックで艶々でさ~』
『いやいや。やっぱりあの ねこ耳うさ耳だろ! 尻尾も可愛くて たまらん~!』
『マコトさんの胸に埋まりたい~!』
『なんのっ、ユキさんのお尻にこそっ、抱き付きたいだろっ!』
年頃な欲求が剥き出しな学生たちは、本人たちに視聴されているとも知らず、タオルケットを抱きしめ好き勝手な妄想で、Hな興奮に身悶えしていた。
訊いている二人も、それぞれに想う。
マコトは、中性的な美顔を魅惑的に曇らせて、素直に呆れる。
「…男子って…」
対してユキは、優しいお姫様のような微笑みで、それほど呆れている様子はない。
「あら、男子というのはあのような感じだと 女性捜査官の先輩方も仰っておりましたわ。それにしても…」
男子たちを見ていて、何か思い出しかけている様子のユキは、ハっと気づいた。
「あら、私…男子学生たちを見ていたら、なぜだか…シュンビンマルを、思い出してしまいましたわ」
「え?」
シュンビンマルとは、ユキの実家で飼っていた大型アキタ犬だ。
餌の栄養が格段に進歩したためか、ペットたちは五世紀ほど前から大型化して、今や全高が一メートル八十㎝に届く「大(だい)ミケネコ」や「大アキタ」も珍しくない。
現在でも原種はいるけど、特に大アキタは子供が乗れる事でも人気があり、親からすればちょっとした護衛の役目も与えていたりする。
ユキの実家でも、そのような理由で飼われ始めて、ユキとマコトはよく、シュンビンマルと一緒にお風呂に入っていたものだ。
「…ふふ…」
男子から犬を創造した幼馴染みが、ちょっと可笑しくて可愛いと、マコトは笑ってしまった。
しかしなんとなくわかるのは、二人にとってのシュンビンマルは、弟的な位置づけでもあったからだろう。
「なんだか懐かしいね、シュンビンマル。元気なんでしょ?」
「ええ。この間など、父を乗せて山狩りに出たようですわ」
「逞しいね。こんど里帰りしたら、また一緒にお風呂–」
と、懐かしい話をしていたら、コンテナのモニターが警報を発した。
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