第5話 ダールマさんが転ばない
☆☆☆その①☆☆☆
ランドホーリーの入星ステーションには連絡済みだったので、目視できる距離に到達しだい、入星を申請した。
ステーションの保安部に証拠品を渡した後は、捜査官特権で、クルーザーごと惑星に着陸して、いよいよバカンス。
とかワクワクしていたら、保安部の連絡員から、思わぬメッセージが送られて来た。
『特殊捜査官 ホワイト・フロールのご両名充てに、行政長官より、至急の面会要請が届いております』
「「行政長官…?」」
つまり、この移民惑星で一番偉い執政官、大統領とか総理大臣クラスのお偉いさんが、二人に会いたいと言っているのである。
まあ特別捜査官レベルでは、よほどの事情が無い限り断れる権限もないので、とにかく出向くしかない。
「了解しました」
返答をすると、惑星本土の宇宙港への侵入許可が、あらためて与えられた。
ランドホーリーの大地は殆どが岩の剥き出し状態で、行政施設の他にはアトラクションの為の施設と、未開拓な大地だけと言っていい。
白銀のスペースバードを着陸させた宇宙港も、周囲に警備用のバリヤー設備などがあるだけで、整備区画や管制塔などは、地球本星よりも十世紀はオールドなシステムだった。
移民開始時からさほどアップデートされていない事も理由の一つだろうし、複雑なシステムが必要ないのも理由の一つだ。
「行政長官が、なんの用事かな…?」
「まさか…テロリストの中に、密かに長官のご子息がいらした…とかでしょうか?」
あり得ない事でもない想像に、二人はやや緊張しつつ、ブリッジを後にする。
船外に降りると、政府専用のピンク塗りな大型高級車が停車していて、運転手が恭しく迎えてくれた。
「お待ちしておりました。行政長官がお待ちです。どうぞ」
美形で若くて背の高い男性運転手は、優しい笑顔で、二人の為に後部座席の扉を開ける。
「どうも」
「ありがとうございます」
マコトのねこ耳が、ユキのうさ耳が、油断なくピンと緊張を見せていた。
美形の青年は、二人の露出過多な正式スーツに、やや恥ずかしそうに、目のやり場に困っている。
王子様を想わせるクールボーイッシュなショートカット美少女と、お姫様のような優しい雰囲気のゆるふわ少女が、巨乳の谷間や大きなお尻も露わなTバックメカビキニで、姿勢良く並んでいるのだ。
健全な男性なら、ドキドキと戸惑っても仕方がないだろう。
そして当惑させる本人たちは、仕事モードのうえ、色恋を意識した経験も無し。
更に、精神的に夫婦な感覚も手伝ってか、美形の異性に過度なドキドキとか、全く感じていなかった。
(……悪い空気は感じないね…)
(…ええ。ですが…)
とにかく、行政長官に会わなければ、何もわからない。
二人は美形の運転手に促されるまま、後部座席へとお尻を降ろした。
☆☆☆その②☆☆☆
宇宙港から行政区画へと車が走り、特に怪しい様子もなく、すんなり到着。
「こちらでございます」
丁寧に案内されながら車を降りて、いわゆる官邸へと招かれた。
長官室の扉の前に到着するまで、危険な要素は全く無し。
特にユキは、自作の索敵センサーを、密かに作動させていたり。
(私のセンサーには、標準的な防犯システム以外 反応はありませんわ)
(…気にしすぎかな…?)
自国家の領域とはいえ、母星から離れた惑星には、敵対的な異星の接触が密かに行われている事も、宇宙では珍しくない。
このランドホーリーに関して、そのような噂は聞いたことが無いとはいえ、用心に越した事はないのである。
案内役でもある美青年が扉をノックすると、中から野太い中年男性の声が返ってきた。
『どうぞ』
「失礼いたします。ホワイト・フロールのお二人を、お連れいたしました」
扉が開かれ、案内されると、二人は驚かされる。
質素な室内や、敵意が感じられない事や、ましてや行政長官が二メートルの巨漢だった事などでもなく。
「やあやあ、お初にお目にかかります。惑星ランドホーリーへようこそ。私が、この惑星の行政長官、ダールマ・サンダーです」
地球タイプの制服に身を包んだ長官が、太古より地球のお土産として大人気な、ダルマさんの顔をしていたからだ。
似ている、というレベルではない。
(……なんで、この人…)
(ダルマさんの底をくりぬいて 頭に被っていらっしゃるのかしら…?)
と、勘違いする程の、激似なお顔。
思わず返答が遅れる二人に、長官は慣れた様子を隠す事なく、笑って対応。
「おっほっほ、大丈夫ですよ。私は転びませんから。ガッハッハッハ!」
「あ…そ、そうです…か…」
「こ、こちらこそ、初めまして。私は、地球連邦警察所属 特殊捜査官–」
先に現実を認識したユキが、自己紹介をした。
紹介も終わって大きな掌と握手をすると、長官に案内されて、特別病棟と呼ばれる施設へ、歩いて向かう。
普通、他惑星に向かう時は、その惑星の行政者たちの顔と名前は憶えてから向かうのが常識である。
二人も、ランドホーリーに関する資料は受け取っていたけれど、バカンス気分でほとんどチェックしていなかった。
資料には、ダールマ行政長官の顔と名前も載っているので、二人がちゃんと目を通していれば、初対面での対応もスムーズだっただろう。
という女子たちのミスを全く気にする風もなく、大人の男性は面会の理由を述べ始める。
「いやいや、実は地球へと報告すべき緊急事態が発生しましてな。丁度、報告を上げようとしたタイミングで、お二人がランドホーリーへと向かっているとの報告が 上がってきましてな」
「地球に報告する程の、緊急事態…?」
マコトの問いに、ダールマさんは、足ではなく言葉を転がす。
「はい。このタイミングで、お二人がいらして下さった事は、まさに行幸、幸運としか言いようがありません。もしこれが、お二人のような若く美しい女性捜査官ではなく、あるいは我々のような男性捜査官だったらと思うと…いやそれはもう、悲劇としか 言いようがありません事態でしてな」
「……?」
要領を得ない話ではある。
五階建ての病棟に到着をすると、警棒や装甲服で身を固めた警備員が二名、前方に付き添って、地下一階の、鋼鉄製の扉の前へと案内された。
「ここは…?」
ユキのうさ耳が、中を探るようにピンと立つ。
「特別隔離室です。御覧下さい」
扉そのものがモニターにもなっていて、室内の様子が映し出される。
「「…!」」
照明で明るく照らされた室内では、五人の少年たちが、ベッドに寝かされていた。
医療スタッフはおらず、何かに感染する病気なのかと思ったけれど、ただ呑気に昼寝をしているようにしか見えない。
「あの少年たちは…?」
マコトの質問に、ダールマさんが答えた。
「地球本星から、サマーバカンスにいらしたお客様方です。ただ…」
「…ただ?」
行政長官は、二人が女性だからこそ言いづらい、という空気を隠さず、どストレートに告げる。
「ソープランドで初体験をしようと来星され、より長い時間を楽しもうと、性誘発剤を服用された様子でして。そしてそれが非合法な薬品であったため、体質的に地球本星人とは合わず、危険な症状を発症した病人の方たちです!」
つまり、ひと夏の経験をしに来た男子学生たち五人が、おかしな媚薬を飲んでおかしくなった。
という事だ。
「「……そ、それは…」」
言葉もない二人である。
しかし事態は、呆れる二人が想像できない程の深刻さを含んでいた。
「違法薬物の件に関しましては、すでに密売グループを摘発、逮捕と薬品の押収しておりますし、まあ少年たちの将来を考えれば、説教と反省文でお終いにしようと思います。むしろ問題は、彼らの現在の症状でしてな。それは命に係わる一大事なのです!」
「命に係わる、ですの!?」
ユキが思わず訊ねた。
「現在は小康状態を保っておりますが、九十六時間のうちに、地球本星での高度な医療を施さなければ…」
「…施さなければ…?」
切迫した事態に、二人も息を呑む。
「少年たちは、性欲に狂った淫獣と化してしまうのですっ!」
「……は…?」
「……はい…?」
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