第4話 海賊退治


              ☆☆☆その①☆☆☆


「警報っ!?」

「お眼目が何かを捕らえたようですわ!」

 ホワイト・フロール号のレーダーやセンサーは、当たり前だけど地球連邦の標準機器を採用している。

 しかしメカヲタなユキは、勝手に弄ってリミッターを解除したり、違法ギリギリな性能の底上げ改造を施したりしていた。

 なので、特にセンサー系に関しては、揶揄されるパトカーどころか駆逐艦レベルの超高性能化を果たしている。

 もちろん、実戦的に改造しているのではなく、あくまでユキの趣味として、である。

「あら、一時半の方角。微妙な熱源を探知、ですわ」

 言いながら、目的の方向に白鳥を旋回させると、小惑星の中から高速で離脱する不審船を見つけた。

「なに? 怪しい小型の船が 逃げて行くよ」

 目視したマコトも、軽く言いながら、砲撃桿を素早くホールド。

「あの様子ですと、職務質問をしても 応じてはくれなさそうですわ」

「だろうね。見るからに、怪しいもん」

 ロケット全開で逃走する小型船を、白鳥も高速で追跡をする。

 ただ逃げるだけの高速船へと、ホワイト・フロール号が近づいてゆく。

 短波ですら確実に届く三十宇宙キロにまで接近をすると、法令に則り、警告を発信。

「そこの不審船、停船しなさい。こちらは地球連邦警察所属、特殊捜査官『ホワイト・フローっ–」

 警告中にも拘わらず、不審船は砲撃をしてきた。

 白鳥よりもやや大きいサイズの中型船なのに、装備されたビーム砲やレーザーキャノンは、二十を超えている。

 近づけての一斉射で、こちらの撃沈を狙ったのだろう。

 しかし幾度もの修羅場を潜り抜けて来た捜査官たちには、もちろん通用しなかった。

「ほらやっぱり ですわ」

 予想していた攻撃に、ユキは白鳥を優雅に操作し、全ての光線を煌びやかに回避。

「ユキ、前に廻ってみて」

 マコトに言われて前方へと回り込んでみたら、隠してあった重火器が頭を伸ばし、白鳥を目がけて砲撃してきた。

「やっぱりね。あれ程の過剰な武装、質の悪いゲリラとかだろうね」

「あれ程にまで品性の乏しい武装をさせるなんて、お船が可哀そうですわ」

「とにかく、逃がすわけには行かない」

 マコトは、以前より主任から注意されていた「しかるべき機関への報告」をする。

「地球連邦警察と、惑星ランドホーリー宙域の管轄だもんね…。コホん…地球連邦警察所属、特殊捜査官『ホワイト・フロール』より報告。地球時間十九時二十二分。ランドホーリー宙域との中間宙域で、武装ゲリラと思わしき不審船を発見。攻撃を受け、これより防衛行動に移ります」

 映像も一緒に発信したので、今回こそは、叱られる事がないだろう。

「OK、報告 終わり」

 ついでにもう一度、不審船に対して警告をしたけれど、応答も無ければ、逃走や攻撃を止める様子も無し。

「なんだろう。隠れていたところをボクたちの船が接近したから慌てて逃げてる。みたいな感じだよね」

 正解。

「どちらにしても、危険な犯罪者に変わりはありませんもの。このまま無力化いたしましょう」

 ユキの操縦で、白鳥が不審船の真後へと回り込んだ。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 相変わらずの無計画な砲撃だけど、ユキの腕なら余裕で避けられた。

「テロリストのタマゴ…っていう感じだね」

 激しいロケットファイヤーの中に、照準を定めるマコト。

 不審船の大きさから考えると、船の内部には攻撃用と設定してあるエネルギータンクが違法に増設されているだろうから、強力過ぎる攻撃は誘爆を起こしかねない。

「エンジンの中心を外せば…」

 メイン出力だけを殺せば、不安定になった宇宙船は止まらざるを得ない。

 でなければ、どこの衛星や岩にぶつかって命を落とすか分からないからだ。

 –ビューーーーーンっ!

 白鳥の両目から熱レーザーを一発だけ撃って、不審船のエンジンのすぐ上を攻撃。

 狙い通り、メインエンジンを破壊された不審船は、クルクルと錐揉み回転をしながら、領海の外へと流されてゆく。

 あとは、船の自動安全装置が働いて、姿勢制御で停船するだろう。

「これで停船–ぇえっ!?」

 と思ったら、姿勢制御バーニアをムチャクチャに噴射させた挙句、宇宙空間で盛大に爆散。

 不審船の正体どころか、乗組員がいたとしても全員もれなく、正体不明のまま宇宙の塵と化してしまった。

 マコトは中性的な王子様みたいな美顔を、ユキは穏やかなお姫様のような愛顔を、蒼白にさせてしまう。

 事前報告までできたのに。

 クロスマン主任の恐ろしい空気が、頭を過る。

「ボ…ボクたちのせい…じゃない、よね…?」

「き、記録映像を…チェックいたしましょう…!」

 ねこ耳もうさ耳もペタんと力なく伏せたまま、記録していた映像を、目を皿のようにして注視する二人。

「……あっ、ここっ!」

 回転する船体の後部ハッチが開いて、積み込まれていたミサイルがバラバラと撒き散らされる。

 飛散物に混じって、数人の人影も飛び出してきた。

「あ、逃げ出すテロリストですわ! レーザーバズーカを持って–ああ、中から誘爆していますわ!」

 とりあえず抵抗を試みたテロリストが違法に積み込んでいた武器弾薬の誘爆に巻き込まれて、宇宙船もテロリストも木端微塵。

 という証拠映像になるだろう。

「…で、クロスマン主任は 納得してくれると思う…?」

「とりあえず、証拠集めですわ」

 二人は周辺で高速に散らばる不審船の破片を、牽引ビームで出来るだけ回収。

 残骸を、まさしくパズルのように復元させたら、船体に描かれていたテロ組織のエンブレムが確認できた。

「えっと…ランドホーリー革命部隊? へぇ、あの遊覧惑星にも、こんな物騒な組織があるんだね」

「驚きましたけれど、あの平和な観光惑星のテロリスト組織でしたら、確かに不慣れな様子も納得できますわ」

 ついでに、ミサイルの搭載量から考察するに、惑星周囲のウォーターコロニーを破壊できる程のミサイルだ。

 逃走方向も、ランドホーリーに向かって一直線だった。

「コロニーを人質にして交渉…あるいは破壊するのが目的だった…かな」

 なんであれ、宇宙のテロを未然に防いだのである。

 心配事も解消されて、心の底から安心する二人だ。

「クロスマン主任にも、叱られないで済むね」

「ですわね♪ さ、この証拠を届けるためにも、ランドホーリーに急ぎますわ」

 まさしく取ったエサのように、牽引ビームで証拠品を引っ張って、白鳥は高速発進をする。

 最高速度の安定したブリッジで、マコトはあらためて思う。

「やっぱり、クロスマン主任には 超能力があるんじゃないかな…?」

 遭遇したテロリストも、ユキの操縦でなければ攻撃を避けられなかっただろうし、マコトの射撃能力でなければ接近攻撃を決められず、逃げられていただろう。

 対してユキは、リアリストだ。

「たまたま、ですわよ。だいいち このような修羅場、私たちにとっては日常茶飯事でしょう?」

「う~ん…」

「それよりマコト、あとは集めた証拠を、ランドホーリーの保安本部に引き渡しをすれば…」

 目的の惑星は、娯楽とバカンスの惑星である。

「うん。残りの日数はずっと、ランドホーリーでノンビリ だね」

「ランドホーリーエステに、ランドホーリーマカロンに、ランドホーリーコスメに、ランドホーリーランジェリーに–」

 二人のワクワクは、高まるばかりだった。

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