第3話 噂話
☆☆☆その①☆☆☆
クロスマン主任は、実は超能力者なのでは。
という噂が、特別捜査官の間では、まことしやかに囁かれている。
以前、二人の先輩にあたる男性捜査官「ワシノミヤ・サングウジ・リドラー・ハント(三十一歳 独身 ヒョロ身長 趣味はお菓子作り 荒事大好き♡)」が、やはりクロスマン主任から、パトロール任務を命じられた。
割り当てられた宙域は、小さく平和な農業系の移民惑星までの、巡航速度で片道一週間の領域。
道中には全く、小惑星どころかアステロイドベルトの欠片すら無い、本当に何もない宇宙空間である。
荒事の為に捜査官になったようなワシノミヤ先輩は、同僚だけでなく後輩であるマコトたちにまでグチを零しつつ、渋々とパトロールに出発をした。
泣きながら「帰ってきたら慰めてくれよおお!」と、ユキに縋り付いていたものだ。
死んだ魚のような目で三日ほどパトロールをしていたら、素晴らしい視力を以て、肉眼で漆黒の大型物体を発見。
レーダーにもセンサーにも反応しない、月よりは小さいというレベルの妖しい巨大構造物に接近したら、なんと新進気鋭の武装海賊が建造したばかりの、要塞の如き隠れ家だった。
まさに水を得た魚の如く、ワシノミヤ先輩は嬉々として要塞に突撃。
二時間ほどの大銃撃戦の果て、海賊たちの約半数を生け捕りにして、要塞本体まで接収して帰還を果たした。
クロスマン主任とて、もちろん海賊の存在を知っていたワケではない。
「この宙域のパトロールに、彼を向ける事を閃いただけだね」
後に、クロスマン主任は政府広報で語っていた。
そんな逸話をいくつも、マコトとユキは、その他の先輩捜査官たちからも聞かされている。
「つまり、ボクたちが向かうような事件が起こる…って可能性でしょ?」
「常にそのような事案があるワケではありませんし、正直言いまして 私はその噂、半信半疑ですわ」
白鳥を模した専用クルーザー「ホワイト・フロール号」のブリッジで、二人はそんな会話を交わしていた。
出発するまで着ていた衣服は、船のキャビンにしまっておいて、パトロール任務中の二人は、いつものスーツで身を固めている。
大きなバストをムチっと包むメカビキニのような純白のトップと、大きなお尻を隠さないメカビキニのTバックボトム。
ハンドガンを収めたホルスターは、シートの収納スペースにベルトごと格納してあった。
☆☆☆その②☆☆☆
パトロール任務は、レーダーやセンサー、目視等で領域の内外を警戒しつつ、クルーザーを巡航速度で飛ばすから、正直、退屈な任務でもあった。
今回の任務も、ワープなら二時間で到着する近隣惑星までの宙域なのに、巡航速度だと最大速でも三日弱。
二人も一応は外を注視しているものの、何もない宇宙空間は、巡航速度でどれだけ長距離を移動しても、景色に大きな変化はない。
光として見える恒星同士の距離が想像外すぎて、それこそ銀河の反対側とかにでも遠出しないかぎり、学校で教わった星座、そのままだ。
ついでに、事件などでワープを使って遠い現場に行ったところで、やっぱり宇宙で見えるのは遠すぎる恒星の光たちだけなので、微妙な位置の違いだーとか、天文マニアでもなければ気にもならないだろう。
現に二人も、地球上から観測できる星たちの並びが、数千億分の更に数千億分の一ミリ単位で変化している景色とか、全く興味が持てずにいる。
なので現在、マコトにとって一番の敵は犯罪者ではなく、睡魔であった。
「ふわわ…ボクはパトロール、目的地に着くまでは退屈」
対してユキは、この退屈な時間をそれなりに楽しんでいる。
「まあ、堂々とノンビリ気を休められる 素敵な任務ですわ」
真面目という意味ではなく、専用クルーザーを縦横無尽に飛翔させてお咎めなしだから、それが嬉しいのであった。
地球のレーダー圏外に飛び出したあたりから、今も白鳥は自由を満喫するかのように、ヒラりヒラりと領域内を目いっぱいに飛び回っている。
船内が重力制御されていなかったら、乗り物酔いでグロッキーになっているだろう。
「公僕が退屈なのは平和の証…って、昔から言われてはいるみたいだけど、パトロール任務って、時間も身体も持てあますよね」
言いながら、シートに腰かけたまま、うーんと身体を伸ばして脱力。
背すじを伸ばした肢体は、艶やかな肌を柔らかく伸ばして左右にくねり、まるで異性を誘う妖しい気怠さを魅せ付けていた。
そんな肢体と言葉のパートナーに、幼馴染みがフと突っ込む。
「あら、マコトったら…」
言われて、身体を持てあます発言に突っ込まれていると、マコトも気付く。
「え…あ、違うよ。そういう意味で言ったんじゃないから」
「あら、そういう意味とは、どのような意味ですの?」
天然華麗なお姫様フェイスで尋ねられたショートカットガールは、恋愛に不慣れな王子様そのものな美顔を羞恥させて、プンとソッポを向いたり。
「そ、それはその…もう、ユキのイジワル」
「くすくす」
お姫様の秘め事みたいな笑顔と視線を向けるユキに対して、中性的な美顔を上気させたマコトだ。
そんな、甘く安穏とした空気のブリッジに、警報が鳴った。
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