第47話そばにいて

 夏休みのお家ご招待の後から、かの子大先生のお教えに従い更なる大攻勢をかけた。


 ちなみにかの子大先生は、地元を離れた近所のお兄さんに大学合格した後、大攻勢をかける予定で、恋愛経験はあまり多くありません。


 本の知識だそうです。

 それどんなラブコメ?


 おっと、とりあえず私は、大攻勢をかけたのだ! ……と言っても、お弁当作りを継続し事あるごとに登を誘った。

 ウザがられたら目も当てられないので、そこは細心の注意を払った。


 夏休み中は登から誘ってもらった花火大会デート(異論は認めない! だが、そもそも異論が出ないような?)もしっかり行ってきた。


 浴衣を着て行ったら可愛いなと褒めてくれた。

 グヘヘ。

 そこ! ちょっと石を投げるのはご勘弁かんべん


 登はそういう事は何故かサラッと言ってくれる。

 せぬ。


 なので花火が終わり、会場から立ち去る人の流れの中で本人に直接聞いた。

「なんで、はっきり可愛いと言ってくれるの?」

 素朴な疑問だっただけだが、図らずも大攻勢だったらしい。

 登は顔を真っ赤にして。

「言える関係ならちゃんと言おうと思って……」

 彼なりに頑張ってくれてたらしい。

 気の使えぬ子ですまぬ〜。

 見捨てんでくれー。

 あれ? でも、言える関係ってどんな関係だっけ?

 そんな考えが頭をよぎったが、頭の中の花畑には長くはそんな考えは残らなかった。


 そんな感じだが夏休み明けも大攻勢をかけた。その1つが餌付えづけ作戦継続だ。餌付けと言いつつ、朱音たちが言うには飼い主が登で、私が犬だ。

 私もそう思う。


 とにかく弁当作りを継続した。

 休み明けにわざわざ登に。

「明日のお弁当何がいい?」

「作ってくれるの?」

 そう返されたので。

「何言ってんの? 栄養偏るでしょ。引き続き作るに決まってるよ?」

 言い切った! 言い切ってやった!

 どこにも決まっていないが、言い切った!


 よって、それからも仲良くお昼を食べている。

 クックック、今、登の身体を作る1/3は私の弁当だ。


 私は更に攻勢をかける。

 土、日は当然のように一緒に勉強しているし、夏に遠慮するなと言われたのを口実にデートのお誘いはしょっちゅうだ。


 どう見ても、なかなかウザい彼女状態な気がする……。

 無論、デートの誘いを断られたら泣きながらだが引き下がるつもりだ。そこをグイグイ行くには抵抗がある。

 だが、断らんのだあの男は。


 大丈夫か?

 私以外の変な女にひっかるんじゃないぞ?


 ……私が変な女なのは、自覚がある。


 そんな日々を過ごしつつ、付き合うってこんな感じなんだなぁと、ふわふわと夢見心地で過ごしていた。

 肝心なことなので再確認するが、私たちは未だに『お付き合い』をしているわけではない。


 絶対、間違いなく誰から見ても、付き合っているようにしか見えないわけだが。

 それは今更ながら私の事情による。

 付き合うのが怖い。


 ふざけるな! 世のお姉様方に叱られることなのだが事実そうなのだ。

 正確には付き合って別れてしまうことを想像してしまうのが、恐ろしくてたまらないのだ。

 つくづく情け無い!

 これが私自身のことでなければ、ど突いている!

 自分のことなので、更にど突きたい!


 朱音たちにも相談しつつ、強くなるために心をしっかり持つように意識している。


 ……だが、しかし。


 そうやって、慣れない無理をした所為せいなのかどうか。

 私はついに再びあの本を手にしてしまった。

 私的呪いの本(私以外には笑えるラブコメディ)の友情恋愛の本。

 もう一度己を見つめ直そうと修行僧のような気持ちで。

 これは半分苦手なホラーを見てしまう感覚に似ている。


 結果は言わなくても、分かるよね?


 惨敗だ。

 惨敗も惨敗だ。

 読み返すと改めてこの作品、表現が上手いのだ!

 例えばクラス内のワンシーン、主人公たちが中心の話の中で周りにいる人たちをそれとなく描いているのだ。


 そこに私は『彼女』の姿を幻視げんししてしまった。

 もちろん本の中の彼を振った女は、私のように恋をこじらせたりしていないはずだ。

 だけどそこに私は前と同じように自分を投影してしまったのだ。


 登を振った自分が登と他の女性が楽しそうに笑う姿を見ている。手遅れになった自分の姿。


 ゾッとした。

 寒い。

 とにかく寒かった。

 本を放り出し、私は布団を頭から被り恐怖に耐えた。


 そのまま一睡も出来なかった。

 もともとその日は色々と体調が良くなかった。

 気分的にも不安定になっていたから、そんなことになってしまったのだろう。


 いくらなんでも体調が万全なら、ここまでにはならない。

 なんにしても結果として、体調はぼろぼろになり少し熱もあった。


「登〜。お弁当食べよ?」

 それでも登のところにお弁当を持って行く。


 登は何故か知らないが私を見て固まっている。昨夜の恐ろしい想像が頭をよぎる。

「どうしたの?」

 声は震えなかっただろうか?


「いや、大、丈夫、なんでも、ない」

「熱あるんじゃない?」

 登の額に手を当てる。

 温かい……。

 登が今、ここに居てくれている現実。


「本当に熱ありそうな……どうだろう?」


 私の方が熱が高いかもしれない。

 でも、登が熱を出す方が心配。

 それに比べれば私のことなど。


 居なくならないで。

 お願い。


「いや、大丈夫。村下の顔でも見れば一瞬で冷めるやつだから」

「どんなのよ、それ……」

 なんで村下君?

 流石に呆れてしまった。

 そうすると登が笑ってくれたので、私も嬉しくて笑った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る