恋の執行猶予

第45話相談

 あの日から、俺にはもう色々なんと言ってよいかわからない。

 放課後の学校は、まだ深緑の景色だが、どことなく冬の到来へと至る紅葉の色合いも見せている。


「……と言うわけで、相談に乗ってくれ。御影、村下」

「何がだ?」

 村下が俺の前の席に座り、御影がその横に立つ。

 イケメン2人が並ぶ。

 2人とも背が高い。

 今日は時間差で個人面談の時間のため、先行組の美鈴は先に帰っており今は居ない。


「美鈴の攻勢が凄い」

 俺は机にぐったりしている。

「付き合いたてなら、あんなもんじゃないのか?」

 村下の言い分はもっともだ。


 夏休みが終わり1ヵ月が過ぎた。

 早い人なら大学が決まっていたりする。

 夏の間だけの幸せな愛妻(?)弁当生活も終わりを迎えると思っていた。

「何言ってんの? 栄養偏るでしょ。引き続き作るに決まってるよ?」

 そんなふうに美鈴に断言され、はや1ヶ月。


 当然のように昼は共に取っている。

 餌付けされている気もするが、俺を餌付けしてどうしようというのだろう。


 もう堕ちてるぞ?

 というか、堕としたいのか?

 なんで?


 それだけではない。

 週末には一緒に勉強をしているし、メッセージのやり取りは毎日飛んで来て、何処何処行くから付き合って? おー、良いぞー。そんなやり取りが定番化している。


 更に夏に続き、家にも再度招かれた。

 俺の大好物のハンバーグを用意してくれていて、美鈴のお母さんはお礼だから〜と言ってくれたが、もはやお礼とはなんだろう? そんな疑問と戦うしかない状態だ。


 相変わらず美鈴のお父さんには会っていない。働く男は大変なのだ、とても尊敬する。


 あれ? なんでこうなった?


「……付き合ってない」

 俺は絞り出すように言葉をらす。

「はぁ!? お前それは酷いだろ?」

 村下の言い分はもっともだ、普通なら。


「すまん、言い方を変えよう。互いに告白して付き合おうと言ったことがない」

 俺のまたしても絞り出すような言葉に、今度は御影がため息を吐く。

「……成る程な」


「はぁ? いや、だってなぁ、夏の図書館で雪里がお前のこと愛してるって……」

「村下」

「あ、やべっ!」

「へ?」


 俺は目が点になっていると思う。

 誰が誰を?

 そんでもって、それをなんで村下に聞かされているんだ?

 御影は再度ため息を吐く。

 ごめんなぁ、気苦労かけて。

「朱音から多少聞いている。話は聞きたいだろうが見守って欲しいだと」

「それは美鈴の想いを、か?」

 御影が頷く。

 見守るかぁ〜

 ふーっと、机に身体を伸ばす。


「しゃあねぇよなぁ。1年半以上片想いしてるんだ。今更かぁ」

「1年半ってお前、なげぇな!」

 村下の言葉に御影が自信たっぷりに応える。

「ふっ、甘いな。俺など10年以上だ」

 うるせい! 由緒正しき幼馴染様と一緒にすんな!


 そこで俺はかねてからの疑問を口にした。

「だが実際、付き合うってどういうことだと思う?」

 村下が質問の意図がわからないなりに、不思議そうに首を傾げながらも答えてくれる。

「そりゃあ、好きな者同士が一緒に居ることだろ」

「じゃあ、なんで別れるんだ?」

「なんでって……」

 村下が口ごもる。

 まあ、村下も別れを経験しているからな。


「ああ、違う。仕方のないことだって言うのは分かっているつもりだ。生き方や考え方、ちょっとしたボタンのかけ違いが起こることも。そういうことじゃなくて……。結婚したいと思って付き合うわけじゃないんだよな?」

 村下が言葉に困る。


「あー、分かってる。自分で青臭いこと言ってるのは分かってる。すまん! 忘れてくれ」

 村下は御影を見るが、御影は一切の迷いのない顔で頷く。

 カッコいい〜。


「マジか? ここでは俺が少数派か?」

 村下は愕然がくぜんとする。

 すまん、村下、本当にすまん。

 愕然がくぜんとしたまま、村下は口を開く。

「じゃあ、何か? お前は雪里とも結婚までしたいと思ってる、ってことか?」


 村下に言われ、腕で顔を隠し目だけ出して、

「まあ。そういうこと」

 ワナワナと震え、村下は俺たちを指差す。

「お前らマジか? 高校生の身空でそんなこと……え? じゃあ、雪里の愛してる発言もそういう事なのか!? え? マジか?」


 何度も心の中で言うが、すまん! きっと間違いなくお前が一番常識派だと思う。

 美鈴の愛してる発言がそういう事なら心から嬉しいが、それを何故、村下の口から聞かねばならんのだろう?


「美鈴の心の整理がつくまで現状維持かなぁ」

「いくらなんでも、俺はそんなこと考えたこともないな。将来なんてどうなるか分からんからなぁ。何処で働いているかも、誰と出会っているかも。高校生でそこまで考えるにはなぁ〜」

 その通りだろう。

 言ってしまえば、高校という世界はとても狭い。


 でもまあ、それについては俺から言わせれば。

「村下がイケメンだからそう思うんだろうな」

「は?」

 村下は理解出来ないという顔をする。


「俺はモテないからな。ああ、ひがみじゃなくて……。今まで俺の恋は実った事がない。だから、もし俺を好きになってくれる子と付き合う事が出来るなら、何処までも愛してあげたいってね。ずっとそう思ってただけで」

 それが本当に美鈴が相手なら最高に幸せなんだろうな。


 突如、星が飛ぶような衝撃が頭に走る。

「羨ましいぞ! こらっ」

 痛っつ。

 村下に頭をごつかれた。

 おい、体育会系手加減しろ!

 手加減してこれなんだろうけど。

「ああ、まあそうだな。アドバイスするっつうんなら、ありきたりな言葉だがお互いを尊重し合い大事にするってことだろうな。実際、別れる理由の多くがそれが出来なかったためだと俺は思うがね!」


 フンっと村下はそっぽを向く。

 頭を抑えなが、俺は笑う。

「ありがとう村下。アドバイス、忘れないようにする」


 結局は、その人の心掛け次第なのだろう。時にゆずれないものもあるかもしれない。

 それでも相手の持つ譲れないものも互いに尊重し合い、どうにかやっていくものなのだろう。


「俺も朱音と結婚まで行くつもりだぞ?」

 当たり前だ、幼馴染様。お前らはむしろそれ以外許さねぇ。

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