第44話お家へご招待⑦
食事が出来たということで俺と美鈴はテーブルに着く。
流石に美鈴は手を離して隣に座り、美鈴のお母さんと花純ちゃんが対面に。
「前は美鈴を送ってきてくれてありがとうね。お礼が遅くなってごめんなさい」
美鈴のお母さんはその場で頭を下げる。それは正しく母の姿。俺は自分が正しいことをしたのだと嬉しく思う。
「いえ、美鈴さんは俺にとっても大切な友人ですので。困っていれば助けるのが当然なので」
「馬鹿な娘でご迷惑ばかりお掛けするでしょうけど、よろしくお願いしますね?」
「はい」
ふふふっと美鈴のお母さんは品良く楽しそうに笑う。
美鈴は特に何を言うでもなく、もぐもぐと美味しそうにご飯を食べている。確かに絶品料理だ。ここ最近、こういう家庭料理を美鈴の弁当以外では食べていないことを思い出す。
美鈴はこちらに気づくと。
「なに、どうしたの?」
と不思議そうに尋ねてくる。
「いやいや、なんでもない」
俺は笑って誤魔化す。
「登君は一人暮らし何ですって?」
「はい。高校2年生の時から」
「食事とかはどうしてるの?」
「一応、簡単な物で自炊ですね。惣菜買ったりカップ麺とかと組み合わせたり……ですかね。流石にちゃんとした物はあまり作れないので、美鈴さんのお弁当に助けられています」
あらまあ、と美鈴のお母さんは楽しそうに。花純ちゃんはマジ!? と目を丸くして姉の美鈴と俺を交互に見てる。美鈴は
「ちゃんと材料代も払ってくれて、随分しっかりしている方だと思ってたのよ?」
「マジ!? え? お姉ちゃん、登さんからバイト代貰って弁当作ってるの?」
「……バイトじゃない」
黙っていた美鈴だが、それには
「1人暮らししていると食事を作る大変なのがわかっているのですが、つい甘えさせてもらってます」
ほへ〜っと花純ちゃんは感心したように言う。この子も美鈴と同じで表情豊かだよなぁ。
「良かったらまたいらして下さいね? 1人暮らしだと栄養が
「はい、機会があれば是非」
俺は笑って答えた。
一応、こういう社交辞令は分かっている。
美鈴のお母さんが何故かイタズラをするかのように、美鈴に似た顔でニヤリと笑って応えた。
「ええ、是非」
食事が終わり食べた食器を片付ける。
で、最後にお礼。
「ご馳走様です、美味しかったです」
「ええ、次は大好物を教えてね? 用意しておくわ」
そう言ってくれたので、笑ってありがとうございますと答えた。
美鈴たちにお見送りされて、美鈴の家を出た。火照った身体に夜風が気持ち良い。
長い一日、だった気がする。
前から距離が近かった気がするが、今日は特に近かった。
それだけ気を許してくれている証拠なのだ。
いつか見たような夜空を見上げる。
そこにはあの日とは少し違う月の形。
でも、綺麗な月だ。
「月が綺麗ですね」
そう表現した明治の大文豪がいた時代には直接的な表現が必要なかったのだろうか?
もしくはそれを直接的に伝えることで、何かが壊れてしまうと思ったのかもしれない。
それでも俺は今日、美鈴と約束をした。
必ず美鈴に好きと伝えると。
だからハッキリと美鈴に伝えよう。
その大嫌いな恋の向こう側に、何かがあると信じて。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
食事が出来たのでテーブルに着く。
登の隣に座り、対面に花純とお母さん。
「前は美鈴を送ってきてくれてありがとうね。お礼が遅くなってごめんなさい」
お母さんはその場で頭を下げる。
ごめんなさい、馬鹿な娘でいつも迷惑かけて。
「いえ、美鈴さんは俺にとっても大切な友人ですので。困っていれば助けるのが当然なので」
「馬鹿な娘でご迷惑ばかりお掛けするでしょうけど、よろしくお願いしますね?」
「はい」
大切な人です。よろしくお願いしまーす。
馬鹿な娘というくだりは定型分なので、気にしない気にしない……ぎゃおー!
それはともかく、この唐揚げ大好き。
お母さん、私の大好物で揃えてくれたんだ。
母の優しさにホロリ。
あんたの記念だからねぇと言ってくれてるようだ。
……あとでほんとに言われそう。
もぐもぐと美味しくご飯を食べる。
ふと登がこちらを見ていた。
「なに、どうしたの?」
と尋ねる。
「いやいや、なんでもない」
登は笑い、食事を再開した。
口に合わなかったわけじゃなさそう。
美味しそうに食べてる。
こういう家庭的な食事久しぶりなのかな?
私はピーンと来た。
そうだ、今度部屋に食事を作りに行ってあげよう。
お母さんからも料理教えてもらって、そうしよう。
花純が私と登を交互に見るけど、ごめん、お姉ちゃんはこれからの計画で頭がいっぱいなの!
登の食生活もバランス良くなさそうだし、この私に任せてね!
「マジ!? え? お姉ちゃん、登さんからバイト代貰って弁当作ってるの?」
「……バイトじゃない」
妹よ、それは酷い間違いだ。
姉は愛妻弁当を作っているのだ。
「良かったらまたいらして下さいね? 1人暮らしだと栄養が
「はい、機会があれば是非」
むむ? 登が母の言葉を社交辞令だと思っている気配がする!
登検定特級の美鈴さんには分かりますよ!
お母さんが何故かイタズラをするかのようにニヤリと笑う。
「ええ、是非」
あれ? お母様なにかお
食事が終わり登は食べた食器を片付ける。ちょっとしたことなんだけど、しっかりしてるよねぇ。
「ご馳走様です、美味しかったです」
「ええ、次は大好物を教えてね? 用意しておくわ」
「ありがとうございます」
登は笑ってそう言った。また来てもらうからね?
お見送りされて登は家を出た。ちょっと、いや、かなり寂しい。
「お姉ちゃん、寂しそうな尻尾と耳が見えるようだよ?」
「飼い主が帰って寂しいのだ」
「うわぁ、ぶっちゃけた」
家族に隠しても仕方あるまい。大泣きしてるの知られてるんだし。そんな中、登を連れてきたらバレバレもバレバレだ。
「付き合ったらダメなの?」
花純は至極当然の疑問を口にする。
「付き合うことはそんなに大事なことかな?」
「大事なことだと思うよ?」
「そうだね、私もそう思う」
私はリビングに戻る。
そうだ、結局のところ、私のわがままに過ぎない。
ソファーに座り自分の隣に触れる。
ここに登は居たんだな。
幸せだった。
反対にもし、振られてしまえば……。
誰もがその恐怖と戦っているのだろう。
「恋する乙女は強いなぁ……」
私も、そのはずなんだが。
「せめて受験終わるまで待ってもらえるかなぁ〜」
恋心は厄介だ。
それはいつ襲ってくるか分からない。
突然、彼から私とは別の誰かの名が突然、出てくるかもしれない。そうなったら……。
「恋する乙女ねぇ〜。また、登君連れてらっしゃい」
母は洗い物をしながらそう言った。
「ねえ、お母さん」
「んー?」
「ありがとう……」
母は少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべ言った。
「どういたしまして」
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