第39話お家へご招待②

「ま、まあ、話を続けましょうか。それで何で残ろうと思ったの?」

 いかん、いかん。ただの会話で動揺しすぎだ私。まだ慌てる時間じゃない、落ち着け〜ヒッヒフー。

 だが、そこからすぐに登から猛攻!


「好きな子がいたからな」

 椅子から落ちなかった自分を褒めたい。


 私が自分を指差すと登は微笑を浮かべながら頷いてくれた。

 登〜! すーきーだー!

 あー、でも、過去のことなんだよね。

 そう思うと途端に寂しくなる。


「まあ、生活するということの大変さとかの意味が他の人より分かったから、結果として良かったかな、と今は思ってる」


 偉いな。

 私も前に進まないと。

 そのために一つだけ言っておかなければならないことがある。

「……ねえ、一つだけお願い、聞いてくれる?」

「何?」


 恋のタイムリミットを聞く。

 辛い! 辛い! 辛い!!!

 ずっとこうしていたい! ずっとそばに居たい!


 でも、私は彼女では無いから。

 彼を過去に振ってしまった女だから。


 だからそこには彼が次の恋をしてしまうタイムリミットが存在する。

 だから、その時が来ないことを願いつつ、それでも。


「もし、もしも、必ず私に教えて欲しいの。あ、ほら! 流石にそうなったら、2人っきりで居たら、良くないでしょ? ……だから」


 言葉を吐くだけで辛い、痛い。

 大っ嫌いな恋がズキズキと激痛を放つ。


 その時が来てしまったら。

 上手く笑えるかな?

 ……無理だろうなぁ。

 泣くだけで済むかな?

 ……無理だろうなぁ。

 幸せを願えるかな?

 ……願ってみせる。


 登は笑う。

 優しく、とても深い海のように暖かく。

 ああ、嫌だなぁ。一緒に居たいなぁ。


「ああ、分かった。必ず美鈴に伝えよう」


 私は力強く頷く。

 例え、自分がどう思おうと彼が幸せになれるなら。私も深い海のように……なってみせよう。

 ……だから。


 登は可笑しそうに何故か笑う。

「全く可愛いねぇ。さて、そろそろ勉強再開しようか。なんとか志望校に合格しないといけないしな」

 

 ん? 今、何かさらりと可愛いと言わなかったか? 気のせいか?

「登は道谷さんの学校第一志望のまま?」


「うん、理数科で忙しいけど、あの人のやってることとか興味あるから」

「尊敬してるんだっけ?」

「まあね」


 良いなぁ、登に尊敬されて。

 確か元バイト先の湯ノ沢さんという先輩仲間と付き合ってるとか言ってたね。


「また、お店に顔出しに行きたいな〜」

「お、そうだな。一度食事がてら顔を出そう」

 食事の誘いをしてくれたのが、本当に嬉しくて私は自然と笑みがこぼれた。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 俺たちは互いに息を整えて、椅子に座り直す。ちょっとお話し合いが必要な感じもするが俺たちはすでに限界だ。

 とゆうか、なんで美鈴があそこまであの話で動揺するのかはサッパリ分からない。


「ま、まあ、話を続けましょうか。それで何で残ろうと思ったの?」

 ん? ああ、転校せずにわざわざ1人暮らしに残った理由か。


「好きな子がいたからな」

 まあ、今でも好きだけどな。


 椅子から落ちこそしなかったが、口を半開きにして真っ赤な顔のまま自分を指差すので、微笑びしょうを浮かべながら頷いておいた。


「まあ、生活するということの大変さとかの意味が他の人より分かったから、結果として良かったかな、と今は思ってる」


「……ねえ? 一つだけお願い、聞いてくれる?」

「何?」

 一つだけでなくいくつでも聞くけど?


 美鈴は下を向き自らのスカートをギュッと握りしめる。今から言うお願いが彼女にとって、決して良いお願いではない事が表情から分かる。


 そんな顔して聞いてこなくても良いのになぁ。ほんとに君のためなら何でもして見せるのに。苦笑いが出る。


「もし、もしも必ず、私に教えて欲しいの。あ、ほら! 流石にそうなったら、2人っきりで居たら、良くないでしょ? ……だから」

 何でそんなに辛そうな顔をしてくれるんだかね。

 それでも彼女も俺とのこの時間を大切に思ってくれているのだ。

 それが何よりも嬉しい。


 俺は深く笑う。

「ああ、分かった。必ず美鈴に伝えよう」


 うん、といつか来るその時を覚悟でもするように彼女は力強く頷く。


 ……だから。

 俺が今言った言葉の意味は彼女は分かっていないのだろう。俺は何となく可笑おかしくて笑った。


「全く可愛いねぇ。さて、そろそろ勉強再開しようか。なんとか志望校に合格しないといけないしな」

 俺はおもむろに立ち上がる。


「道谷さんの学校第一志望のまま?」

「うん、理数科で忙しいけど、あの人のやってることとか興味あるから」

 学んでみたい講義もあるし、将来を見据えても安定している。

「尊敬してるんだっけ?」

「まあね」

 彼が湯ノ沢さんが倒れたときに如何いかににカッコ良かったことか。男として一気に惚れた。あの後、2人は正式に付き合い出したそうだ。


「またお店に顔出しに行きたいな〜」

「お、そうだな。一度食事がてら顔を出そう」

 自然と俺たちはその約束をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る