第40話お家へご招待③

 夕方、図書館が閉まるのに合わせて私たちは建物を出る。冬なら真っ暗な時間だけど、夏は反対にまだまだ明るく暑い。


「1人ではこんなに集中続かないからなぁ。一緒に通って正解だな」

 登の言葉に私は我が意を得たり、と大きく頷く。

「でしょう? でしょ!」

 図書館デートの正当性を得て、さっきまでの落ち込んだ気分はどこへやらすっかり急上昇!


「ここまで勉強しても受かるかどうか分からない辺り、受験って厳しいよねぇ……」

「そうだなぁ。志望校のレベル次第なんだろうけど」


 街には夏らしい飾りや品が置かれてある。

 自然、私も登もそこに目がいく。一緒に出掛けたいなぁ。

「来年、大学生になれば山とか海とか行きたいよな」

「私はキャンプに憧れるなぁ。かの子、キャンプよく行ってたって。マンガ見て行きたくなって試したらしいよ」

 あはは、と笑いながらも思う。来年、自分は登の隣に居られないかもしれない。

 大学も離れ、どうしようもなく離れ離れになるのか。

 そのまま気が沈み、地面を見て歩く。

 

「来年、受験が終わったら一緒に遊びに行こうか。山に海に川に」


 その言葉に驚いて登を見る。

 ライネンモ、イッショニイテイイノ?


「行く!」

「色々と遊びまくりたいなぁ。夜通しカラオケにゲーム」

「行こう、行こう。私、温泉も行きたーい」

 2人で泊まりで。


「灰色の受験生活も希望がないとねぇ。とりあえず、次の週末にある花火大会一緒に行かないか? 勉強休憩として」


 思えば……いつかとかではなく、具体的に誘われたのは初めてだった。


「いいの?」

 デートの約束。

 それだけでなんとも、私は単純だ。


「その、いいの? の意味は分からんが、受験勉強の息抜きは大事だろ? あ〜、あと今更だけど。先にはっきり言っておくが、頼みたい事があれば遠慮するな。何処行きたいアレしたい、コレしたい、付き合うから。お前は俺にとって大事な友達だからな」


 大事なのはとても嬉しいんだけど、友達止まりは嫌なんだ。

 登が私のほっぺたをふに〜っと引っ張る。

「俺と友達なのが不満なのか〜? えー?」

「ひょんなんひゃこひょじゃにゃふて」

 そういうことじゃなくて!

 ほっぺたから手が離れる。

 彼が触れた頬が熱い。


「私は4ヶ月前、告白を受け入れられなかったから」

「だから今更、友達ではないとでも?」

 私は下を向きながらも力強く首を横に振る。


 告白の時。

 告白を受け入れたかった。

 あの時、登が引かなかったら、私は……きっと彼氏がいるのにそれを受け入れてた。

 最低だ。


「私はひどい奴だから」

「え? 何処どこが?」

 登が不思議そうに聞き返すが私は答えられない。


 恥も外聞もなく登が好きだ。

 ずっと好きだ。

 彼氏が居たのにずっと好きで。

 それを自覚しようとしなかった自分が最低で。

 それでも登が欲しい。

 誰に責められても。


見縊みくびるなよ。雪里美鈴」

 唐突に掛けられた言葉にえ? と私は顔を上げる。


「お前は俺が惚れた女で出会った頃からの友だ。お前の性格の全てとは言わないが、ある程度は知っている。その俺が断言する! お前は良い女だよ。酷い女じゃない。なにを思い悩んで、たわけたことを言ったか知らんが胸を張れ!」


 そう言って私の前で仁王立ちする登。

 胸を張り、堂々と……好きでいて良いですか?


「登から見て、私は良い女?」

「まあな」

 それが一番大事。

 私は登にとって良い女。

「登って良い女って好き?」

「当たり前だ」

 言い切ってくれる。


 私を好きですか?


「良い女、自分の女にしたい?」

「当たり前だ!」

 私が良い女だから自分の女にしてくれるってことだよね?

 ふむ、と私は自らのアゴに手をやり考える。

 友達としてなのか、異性としてなのかそれは分からないけれど登は私が好き。


「じゃあとりあえず、それで」

 それで。

 心から笑顔で歩き出す。

 私は本当に単純だ。


 好きな人に好きと言ってもらえたら、それだけでエネルギー満タンだ!

 だから、いつか。


 私は歩き出し、少しだけ前に出てから振り返り、彼に宣言せんせんふこくする。

「いっぱい遊びに誘うし! いっぱい頼みごともするからね! 登? 今更、無しとかやめてよ?」

 今更無しとかマジ死ねる。

「はいはーい、お手柔らかにお願いしまーす」


 愛してるよ、登。私を彼女にしてね。


 そう無意識に考えて、やっと気づいた。

 なーんだ、やっぱり私は登の彼女になりたいんだなって。

 彼に気付かれないように、クスリと笑った。

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