第37話仄暗い恋の底で

 どうしようもないほど呆れられた顔をしていると想像して顔を上げるけど、でも2人とも真剣な顔で私を見ていて。

 私はさらに言葉を続ける。


「そんなんじゃないって言われた瞬間、一切の。間違いなくその場で死を選ぶ。飛び降りかのどを突いてか分からないけれど。そんなの間違ってる、あり得ない、命を馬鹿にするな! そう思うけど、思うんだけど……。大切な人たちと1番好きな人の心を傷つけるのは嫌! 嫌なのに!」


 ああ、言ってしまった。

 言ってはいけないと思ってたのに、言ってしまった。


 あまりに重くて親友だと思う2人の信用を失うかもしれない。

 それなのに口から出てしまった。

 目の前は涙でもう見えない。

 額を床につける。

「ごめんなさい。こんな話して、ごめんなさい……」


 土下座だ。

 ロクな話ではない。

 今すぐ顔を上げなーんてね、と言うのだ。

 ただ勇気がないだけと笑いながら。


「なーに謝ってんの?」

 朱音の声。

 フワッと2人が私をおおう。

「話させたの私だからねぇ、悪かったね」

 かの子がそう言いながら私の背中をあやす。


「ごめんなさい。ごめんなさい。彼が好きなの。どうしようもなく好きなの。

 絶対に失いたくない。失うのは死ぬよりも嫌! 絶対に嫌」

 ああ……またやってしまった。

 また大切な人に迷惑かけて。


 それでも2人はしょうがないなぁと軽く笑いながら、私をあやしてくれた。

 それが何より嬉しくて、あたたかかった。


「成る程ね、これは迂闊うかつに聞いた私が悪かったわ」

 泣き止んだ私を前に、かの子は腕組みしてため息。チラっと見上げると、とても優しい目で見てくれて嬉しくて。

 ありがと〜と言いながら、私はまた涙が出た。


「ああ、ほらほら、分かったから泣かない。

 そういう事情なら、どうしようもないわね。側から見てるとどう見ても両想いなんだけど、人の本当の心は本人でも分からないと言うし……」

 困ったね〜とかの子は腕組み。


「だからちゃんと良い女になって、そんなことになっても自分に負けないようにって」

「あ、そこで良い女に繋がるわけね。まあ、良い女のイメージは振られたとしても、私が振ってやったのよ! そんなふうに言えるぐらい強い女よね」

 かの子の言葉に私はコクンと頷く。


「それに上手くいったらいったで、今の私なら寄り付く女全てに嫉妬しそうで。それも怖い」

 私はそう言って2人をジッと見る。

「私らも!? それはあり得ないでしょ?」

 うん、あり得ん。


 そこで朱音が言う。

「上手くいったら大丈夫よ。嫉妬する間も無くドロドロになるから。そんなこと気にせず、愛されていることを実感出来るようになるから」

 かの子が、あー、愛されてるんだねぇ〜と。

 それは、良いなぁ〜。


「もっと愛されてる実感を感じれるようになれば解決って……付き合わずに?」


 無理じゃない?


「う〜ん、不可能ではないかも?」

 な、なんですと、かの子様!?

 それはどんなイリュージョンを使えば?

 キラーんとかの子の眼鏡が光った! ……気がする。


「みっすん。貴女は図らずもそのミッションに既に挑んでいる!」


 な、なんだってー!?

 え? 本当に何?


「イチャラブよ!」

「「イチャラブ?」」

 私と朱音の声が重なる。

 なんぞや?

 そして、私は既にチャレンジ済み?


 眼鏡をクイと指で持ち上げる。

 かの子、それよくやるけど似合ってるよね……眼鏡クイ。知的美女なんだけどなぁ。


「そうよ! 事あるごとに彼の側に寄り添い、近づく女を千切っては投げ千切っては投げ、そして彼をちょっとずつ悩殺するの。仮によ? 仮に億が1、今は友達としか思われていないにしてもこれで彼を落としてしまえば、至る結論はたった一つ! これぞ結果良ければ全て良し! 大作戦よ!」


 おお!

 なんたる智謀!

 これが眼鏡美女本橋かの子の実力か!


「まあ、要するに慌てず今のまま、仲良くしていけば良いってことね。でも美鈴。貴女ってかなりのヤンデレ気質だったのね……」


 ごめん友よ。

 私も初めて知ったんだ。


「彼に頭撫でられて甘えてたから成功間違いないと思うんだけどなぁ。難しいものね」

 頭撫でられ……見られてた!?

 かの子はニヤッと笑う。


「忘れ物を取りに戻ったら、ね〜。よくもまあ、私の机をラブラブ装置にしてくれたわね〜。あの時点で絶対付き合ってると思ってたわ」

 あわわ、誰にも見られてないと思って登に甘えてたのに!?


「ま、あれ見て、噂とは違うんだなと思ったからね」

 かの子様〜。

 私はまた泣きながらかの子に飛びついた。


 恋心は深くて、重くてどうしようもなくて、大嫌いなままだけど、それでも持ち続けるしかないのだ。

 いつかその先が見えると信じて。

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