第35話策士美鈴

 夏休みに入り私は登と毎日一緒に居る。


 ヒャッホーウ!

 やりましたよ! あたしゃやりましたよ!

 見事に図書館デートの日々を送っております。


「みっすん、倉橋君と毎日一緒で嬉しいからって興奮し過ぎないの」


 そう言って、本橋佳乃子もとはしかのこが図書館内で興奮してしまった私をたしなめる。


 登とは毎日一緒だが、時々は朱音たちやかの子や村下君とかも居るから、完全に2人きりってわけでもない。

 今は図書館の入り口にあるロビーのテーブルの一つを占領し3人で休憩している。まだ9時に入館して1時間しか経ってないけど。


「おおっと、こいつはすまねぇや」

 かの子とは同じクラスになってから、よく話すようになってきたけど、決定的だったのは夏休み前に学校の図書室で遭遇した時のこと。


 かの子は図書室の本を眺め、一言。

「BLが無いのは図書室として問題ね」

 普通の学校はBLは置かないと思うが、そんなことはどうでもいい。

 奴とはソウルメイトになれる。

 私はそう直感した。


 その後、さらに意気投合。

 今では『かの子』、『みっすん(美鈴)』と呼び合う仲に。そこに朱音を混ぜて、お泊り会も実施している。


 図書館通いは私の魂の仕事だから日中は遊びに行けないけれど。


「雪里ってやっぱそうなのか? ザーンネン、俺狙ってたのに〜」

 帰れ! がるるる!

 私の身も心も登のものだ!(予定)


「はいはい、威嚇しないの。村下も分かってからかわないの」

 知的美女のかの子は察知能力が凄い。口に出してもいないのに、よく分かっておられる。


「みっすんは顔に出てるのよ」

 そうだったのか。

「狙ってみてもいいかもと思ったのはホントだぞ? 彼氏居ないって聞いてたからな。結構、可愛いし」


 村下君は去年も同じクラスで登の友達。私はそんなに話したことはなかった。

 確かバスケを引退したところで受験シーズンに遅れて参戦らしい。


 軽くチャラい感じもする。去年は同じ部活の子と付き合ってたはずだし、言いながらも村下君自身がフリーなのかは分かったものではない。


 今更だがこの場に登はいない。

 がっかりである。

 家の買い物と洗濯とかで午後から来るそうだ。だから今日はお昼も一緒に出来ない。

 聞いてくれ!


 素晴らしいことに、私はこの図書館デートが始まって(異論は認めん!)から、毎日登にお弁当を作って一緒に食べているのだ!


 なんたる快挙!

 しかも登はキミの作った卵焼きが毎日食べたい、とまで言ってくれたのだ。

 聞いた時は嬉しくて悶えてしまい、かなり心配をかけてしまった。


「付き合っている人はいないが、愛している人はいる」

 いまさら誰を、と問う人はこの場にはいない。

 登以外にはダダ漏れなのだ。

「マジか、言い切ったよ」

 村下君にドン引きされた。

 異性としては完全に範疇外はんちゅうがいだが、この村下君、結構喋りやすい。


「そこまで言い切っておいて、なんで付き合ってないんだ?」

 村下君は意外と本質をズバズバ突く。

 地頭じあたまが良いのだろう。


 しかし、この質問は私には非常に答え辛い。

「まあ、色々あるってことでご勘弁かんべん

 ある程度答えは出ている。

 かの子には説明しているから、ちょっと複雑そうな顔だ。


 あれは夏休み前に朱音とかの子とで私の家でお泊り会を行った時のこと。




 私のベッドは朱音が占領して、私とかの子はちゃぶ台を挟んで座り、皆でコーラで乾杯。

 そこまでは良かった。


 そこから私は正座して2人から見られている。ちゃぶ台の上には登から借りたままになっている。例の本、幼馴染ではない方。


 かの子はちゃぶ台に両肘りょうひじをつき口の前で手を組み、眼鏡の奥には鋭い眼光。

「それで? 例のシーンはどちらに」

 それは私が泣き崩れ朱音に迷惑をかけたあの日の元凶。

「こ、こちらに」

 私は問題のワンシーンを見せる。




『俺はアイツが彼氏がいるのが分かってた。それでも抑えきれなかった。結果は惨敗ざんぱいだ、振られてしまったよ。

 でも今はもう心からただの友達だと思っている。俺が好きなのは……お前だよ』

 ヒロインへの告白シーンだ。




 その前後のページを2人はペラペラめくる。

 私は罪人のごとくお沙汰さたを待った。


 かの子はペラペラ〜と他のページも目を通す。

 朱音は私のベッドで力尽きたように大の字で転がった。

「え? コレ?」

 本を表裏ひっくり返しながら、信じられないというようにかの子は目を丸くして再確認する。


 私は正座したままコクンと頷く。

「たったコレだけでー!?」


 はい、それだけで2日間学校を休んでまで、泣き続けました。

 う、今でも泣ける。


「駄目だ、かのちゃん助けて。私には美鈴のお守りは重過ぎる。後は、任せ……バタッと」

「朱音〜! 見捨てないでー」

 私は朱音の寝たふり死体にしがみ付く。


「えーい、離せ離せ。厄介な思い込み娘め!思い込むだけになんと重いやつだ!」

 思いだけに重いと。

 ダジャレか。


「コレは凄いわ。クラスで見てても面白いと思ってたけど、真相を聞くと面白いどころじゃないわね。ただのちょっと可愛いだけの文学少女がイケメンと付き合って、垢抜けして次の男を狙いに行っただけと聞いてたけど、全然違ったわ」

「あ、そんな風に見えてた?」

 かの子にそう思われてたなら、ちょっとショックかもしれない。


「私がそう思ってたわけじゃないわよ? そうでないと、いくら面白くても近寄ったりしないわよ。立山君の遊び相手なんかが、そう噂してただけ。まあ、私も図書室での運命的な出会いが無ければ、クラスメイト以上に仲良くなる気はなかったけどね」


 ああ! 運命の出会いに乾杯!

 私はコーラをかかげる。


「美鈴たち、そんなに面白い状態なの?」

 クラスの違う朱音は私たちの様子をかの子に聞く。ちなみに私は自分たちがどんな状態なのかは分かっていない。


「飼い主と犬?」

 どちらがどちらかなんて、言う必要ないだろう。

 無論、私が犬だ。


「この子それなりに容姿は良いでしょ? 男どももチェック入れてたみたいなんだけどね。今では誰もちょっかい出そうとしないわね。あ、でもこの間、別クラスの男子に告白されてたわよね?」


 された。

 昼休みに登の席に行こうとしたら、呼び出されたから仕方なく屋上へ。

 宝生院先輩が告白し、それを登と一緒に眺めた神聖な地を汚すとはフテェ野郎だった。

 容姿? サッカー部主将とかで人気者らしい。

 だから?


 無理、愛している人が居るから無理と言い切った。

 愛の荒野は厳しいのだ、脇目を振る暇などない。


「興味のない人には簡単に自分の気持ちを正直に言えるんだけどなぁ……、恋ってほんと厄介」

 転がっているスヌーピーのクッションを抱える。

 あー、この弾力、いつ抱えても良いわ〜。

 そんな私は登に何も言えていない。

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