第32話お手伝い
私にとって登との甘く幸せな時間を過ごす。
認めよう! 幸せだった!
ああ、幸せだったさ!
待っていたのは現実だ。
数日ほど前のテストの結果だ。
無論、拳を高く挙げて気合いを入れようとも勉強はしないと点数は伸びません。
ヤバイ〜、母にこっぴどく怒られる〜?
体調不良だった、で誤魔化すか!?
思い起こせば、その夜中に娘は突然大泣きし続けたのだからアリバイは充分だ。
、、、親不孝な娘ですまん。
反省しながら、飼い主(登)のところに行きたいのを我慢して、自分の席で休み時間中も勉強を始める美鈴犬。
昼休みも勉強をするけれど、少しぐらい登エネルギーを補給させてもらっても良いだろう。
どんな口実で突撃しようかと画策しながら、彼の席に近づく。
近づくと彼の携帯が鳴る。
私に気づいた登は手だけで謝ると電話に出る。気遣ってもらっただけで私のエネルギーは満タンだ! でもチョロインと呼ぶなよ!?
美鈴犬は大人しく彼の席の横でしゃがんで待つ。ちなみに近づいた口実は浮かんでこない。
登の電話の相手はバイト先の店長のようだ。
すぐそばで聞いているから事情はよく理解出来た。ベテランバイトの先輩が倒れたらしく、急遽のヘルプが必要になったらしい。
明日の土日も源氏ホタルの会場が近くにあって通常よりも人の入りが多い事が予想されるとか。元々明日の土日は登もその倒れた先輩もシフトに入っていて、人は確実に足りないそうだ。
誰か応援頼めないか、と。
「私で良ければ行くよ?」
情けは人のためならず。
既に私は沢山の人に助けてもらっている。
ならば、少しでも周りにそれを返さなければならぬ。
ジーっと私を見る登。
軽く手を振り、ちゃんと自分の状態を認識した上でのことだ、と真剣に告げる。
登は1人連れて行くと店長さんに返事をして、何度か頷き電話を切った。
「助かる。今日の放課後直ぐにだけど……いけるか?」
おっけ〜と返事。
家には後で連絡だ。
その後、登と段取りの打ち合わせ。
仕事は仕事。
きっちりしないとね。
「いらっしゃっいませー」
という感じで、バイトです。
本当は皿洗いなど裏方でという話だったが、登が裏方の方が段取りが良いとのことで私が接客に回る。
出来るのかって?
ふっふっふ、私は仕事関係は意外にも! (失礼だな、おいと自己ツッコミ)割と器用な方なのだ。
でも突発手伝いなので無理はしない。
登にも心配かけちゃうしね。
メニューや料理の概要は学校でマンツーマン指導(!)とは言っても、短時間では出来ることは限られている。
「すみませーん! こっちメニューまだなんですけど〜」
10個ほどあるテーブルは既に満席。
入り口でも待機中。
「はーい! 今いっきまーす」
笑顔で押し切るのだ。
「君、可愛いね、連絡先教えてよ?」
「あわわ、あわわ、えーっと」
別のテーブルでメニューを聞いてた高校1年生新人バイトの
えーい、貴様ら! クソ忙しい中ナンパしてんじゃねぇぞ、ああぁん?
「岩瀬さん、あちらのお客様にお水出してあげて? お客様、ご注文は如何致しますか?」
優しく岩瀬さんの背を押して逃がしてあげる。
「ゆ、雪里お姉様……!」
目をキラキラさせて両手を組んでこっちを見る岩瀬さん。
そういうのいいから、行った行った。
「おお! こっちの姉ちゃんも可愛いね! 名前教えてよ?」
このクソナンパ男が! 空気読めよ!
額に血管が浮き出そうになりながら。
「ご注文は?」
と繰り返す。
「ご注文はお姉ちゃんで!」
私の腕が軽く引っ張られ登がその背に私を隠す。
「お客様、すみませんが当店はそのような店ではございません。大変申し訳ございませんが、メニューの中からお選び下さい」
それから登は反対の手でカウンターに出来た料理を指差す。
私は頷き料理の
ナンパ男どもにメニュー表を出した登はニッコリ。無言の圧力に気圧されたのか、ナンパクソ男どもはそれ以上何も言わず、料理をぞんざいに選ぶ。
それに対して登はあくまで笑顔を浮かべたまま、丁寧に軽く頭を下げた。
か、簡単に落ちると思うなよ!
とっくに堕ちてるけどさぁ!
後でキッチリ礼してやるからなぁ!
チキショウ……カッコいい。
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