第24話不良娘と呼ばれて
俺の部屋に雪里、いや美鈴がいる。
なんでこんなことになってるんだ?
本を貸すのはいい。
既に選別も済んで渡すだけだ。
部屋に来たのも美鈴を送るついでにちょっとだけ寄っただけだ。1分もかかることじゃない……はずだった。
さらに雪里のことを美鈴と呼ぶことになった。
道中、話の流れで。
「朱音のことは名前で呼んでるわけだし、私も美鈴で良いよ? 私も登のことをすっかり名前呼びだし」
何一つ意識していない。
まるで自分でそれを言っていることさえ気づいていないかのように、自然に美鈴はそう言った。
そんな感じにさらりと言われたので、今後は名前呼びにすることになった。
ハードル高ぇ〜っと思ったがもう1年以上になる友人関係だ、それも悪くはないかもしれない。
問題はそのあとだ。
「他のも借りちゃダメ?」
小首を傾げ可愛いく部屋に上がることをお願いされてしまったのだ。
こ、断れねぇ……。
可愛すぎた。
もう勘弁して俺のヒットポイントはとっくに0よ!
ゲームならそこでゲームオーバーで済むが人生は残念ながらまだ続く。
お願いしてきた表情には本に対する興味以外なにも
全く男扱いされてねぇな。
夜に男の部屋に上がる危険さは後日、ちゃんとゆっくり説明しよう。
俺は自制するが、自分でも驚異的な自制心だと思う。
2人っきりで夜に男の部屋に居るのは男からすると、“どうぞ、私を食べて下さい”と言っていることと同義である。
これに例外はない、断言出来る。
全く……と呆れつつも、本を借りることを楽しみにして嬉しそうに部屋に上がる美鈴を俺も止めることは出来なかった。
……のだが。おい、なんで俺の枕を持ち上げる!
「(そんなところに)エロ本なんかないぞ?」
油断も隙もねぇな!
そんな何故か
いくつかの本を俺に見せどんな話か尋ねてくる。そして美鈴はある一冊を手に取る。
「これは? どんな話?」
「あー、それは友達同士の恋愛で……」
「ハッピーエンド?」
「もちろんハッピーエンド」
俺はバッドエンドとか失恋して終わりとかは嫌いというか苦手なのだ。
そんなのは現実だけで十分だ。
「じゃ、これ」
おいー!
即決だった。
今までうーんとか悩んでいたが、これだけは詳しい内容も聞かずに即決である。
美鈴は意識していないだろうが俺は意識している。とてもとても意識している。
幼馴染でもなく、友達同士の恋愛物である。
何というか俺と美鈴も友達同士である。
意識してなければ、なんということはないのだろうけど。
軽い頭痛を覚え頭を押さえる。
「大丈夫? 無理せず休む? 私は自分でなんとか帰るから」
「なにを言う! そんなわけにいくか! 絶対に無事に送るから安心しろ」
心配そうに俺の顔を覗き込む美鈴にノータイムで否定する。
夜道を舐めるな!
2度とそんな危険なことを言い出さないように、男の部屋に1人で上がる危険性と共によく言い含めようと固く心に誓う。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「じゃ、これ」
私はその本を即決した。
迷う要素など何処にあろうか? いや、ない。
幼馴染でもなく、友達同士の恋愛物である。
私と登も友達同士である。
是非ともハッピーエンドを迎えたい。
ふと、登が痛みを抑えるかのように頭を押さえる。
た、大変だ!!!
病気だったりしたらどうしよう!
私を置いて逝くなんて絶対ダメだ!
絶対、黄泉の国まで行って連れ戻す!
「大丈夫? 無理せず休む? 私は自分でなんとか帰るから」
「何を言う! そんなわけにいくか! 絶対に無事に送るから安心しろ」
登の顔を覗き込む。
それでも登は私を送って行ってくれるという。
ううう、とても嬉しいがすまぬ。
すっかり遅くなってしまった。
帰り着いたら22時前になるだろう。
出掛ける場所も誰と出掛けるかも親には伝えてあるが流石に怒られるだろうか?
母にメッセージを送る。
『今から帰ります』
母からの返事。
『気をつけて帰って来い。不良娘。必要ならタクシーも使うように』
そりゃ、こんな夜に浴衣姿の娘が1人で歩いてたら危なくてしょうがないよね。
ごめんなさい。
ちゃんと送ってもらってます。
「親御さん、なんて?」
「ん。不良娘と呼ばれた」
「怒られたってことか?」
登は心配そうにそう言う。
「ううん。心配された」
彼は、ああ、と納得したらしい。
「家に着いたら俺から謝ろうか? 話し込んでたらこの時間になったことと悪いことは何もしてません、と」
笑うこともなく真剣な表情で登はそんなことを言った。
なんですとー!?
そんなことになったら、母と妹からに集中攻撃を浴びる羽目になるじゃないか!?
過去の経緯から今までの全てを洗いざらい吐かされる。
私も吐き切ってしまう自信がある。
それだけ彼女らの猛攻は凄まじいのだ!
第一、登のことをなんて説明するのだ!
恋する乙女の瞳をした娘の隣に居る男が家族に何を説明したら、男友達が送ってくれただけと理解出来るというのだ!
私ですら妹がそんなことをした瞬間に全てを誤解するというか悟るぞ!?
「いい、大丈夫、心配には及ばん」
彼が善意だけで言ってくれているのが分かるだけに申し訳なく思うが、こればっかりは私が自分で言わなければならない。
最悪でも怒られた方がずっとマシだ。
それほど彼女らは恋バナが好きだ。
当然、私もだが。
「そうか、必要だったら遠慮なく言えよ?」
登はあくまで善意100%の顔でそう言ってくれた。
ああ、好きだー!
いつか必ず彼氏だと両親に説明させてくれ!
……その時が来ることはないのだろうと、知りながら。
「かたじけない、今回借りは必ず返す」
登は笑いながら私に笑いかける。
「気にするな。安全第一。貸し借りは無しだ」
「いいや、私が借りを返したい」
貸し借りでも繋がっていたいのだ。
相変わらず自分でも
「……分かった。楽しみにしている」
登は目を細め優しく笑う。
家の前まで送ってもらい、そこで手を振り別れる。
当たり前のことだが、ただの一度も登と直接、触れることもなく。
家に入ると母がリビングでテレビを見ながら。
「お帰り〜不良娘。楽しかった? 帰り大丈夫だった?」
そう聞いてきたが特に怒られなかった。
「うん、心配かけてごめん。楽しかった。友達と一緒だったから大丈夫」
それだけ言って部屋に着替えに行く。
着替えていると、妹の
ニヤニヤしながら。
「お帰り〜、お姉ちゃん。送ってくれてた男の人、誰?」
サーっと私の顔から血の気が引く。
この日、私は妹の
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