第19話それでも恋は逃してくれない

 そうやって私は泣いて泣き明かして、恋を忘れてしまえれば良かった。


 結論から言おう!

 私は悪化した。


 数日、夜は泣きながら不貞寝ふてねしていたら、突然、どうしようもなく登に会いたくて会いたくて仕方無くなってしまったのだ。


「どうしよう? あわわ……、どうしよう!」

 頭を抱えながらベッドで呟きながら転がる。

 1人部屋で良かった。

 こんな不審な娘を両親と妹は見たくないだろう。

 なんだこれは?

 どうしようではない。

 どうにかしたい。

 でもどうしようもない!?


 彼が今ではもう異性として私を好きではないのは分かっている。

 友達としては好きだよね? 違うと言うなら目の前で大泣きしてやる。


 告白してもらったがあれから3ヶ月近く経った。彼の態度はもう普通の友達に対するものだ。私に対する態度は前と何も変わって無い気もするけど。


 だけど諦められない。

 いっそ告白して引導を渡してもらうかとも考えた。

 だが、そうなると恋のショックで確実に大学受験は失敗する、絶対だ。


 なんて厄介な恋心だ。

 今までこんな厄介なヤツに出会ったことはない。

 元カレ相手にはこうはならなかった。それはそれでどうなんだと思うが、私がボケボケし過ぎてたからかもしれない。

 思えばキスも逃げてたのだ。ハグまでだ。


 そりゃあ、男の機微きびは分からないが浮気しても仕方ない。今ならむしろ、私がごめんなさいと謝った方が良いのでは、と思ってしまうほどだ。


 ううう、色々すみません。


 とにかく厄介な恋と出会ってしまった!

 なのに、出会わなければ良かったなんて全く思えない。

 実に厄介だ。


「まだよ。まだチャンスは0ではない……、はず」


 早速、私は朱音を仲間に引き込むべく電話をした。


 思い返せば分かる。

 この日からだ。

 私が登を堕とすための戦いが始まったのだ。


 ちなみに私はこのとき、登がいまだに私に堕ちたままだとか、そんな都合の良いことは全く思うことはなかった。



 次の日、学校終わりにそのまま朱音には泊まりに来てもらい作戦会議だ。

「それで、とりあえずどうするって?」

「うん、悪いんだけど初夏の祭りにグループで一緒に行ってもらいたい」


 作戦会議室は私の部屋だ。

 朱音は私のベッドに転がりながら半目で私を見る。


 そ、そんな目で見るなー。


「でも、そっか。あの美鈴がねぇ……。あたしゃ嬉しいよ。アイツはいいヤツだから誰か紹介してやりたいとは思ってたけど」


 あのってなんだ、あのって!


「誰か紹介してたら、朱音といえど一生恨んでた」

 恨めしや〜。

 恋する乙女は怖いねぇ〜と朱音は嬉しそうに笑う。

 人ごとだと思って〜。


「しっかし、そんなに好きなの?」

「そんなに。今すぐ部屋に突入したいぐらい」

 ヤツの部屋は知っている。いつでもイケる!

 ……気持ちがバレてフラれるのが怖くて行けないけど。


「嫌われていないのは確かだけど、異性として好かれているかというと、どうかなぁ……。雅人にそれとなく聞いてみるけど」

 ベッドの上で転がりながら、うーんとうなる朱音。頼む、友よ。

 あと3月に登に告白されたことはまだ言えていない。すまぬ、友よ。


「とりあえず誘ってみたら?」

 朱音に促されて即座に彼に電話する。

 好きな相手に突然電話をするのは怖いが口実があればイケる、多分。

 3コール以内で相手が電話に出る。


 反応が早い、ヒー!!


 内心を声に出さないように注意しながら、素知らぬ顔を作りながら話す。


「あ、登? どもども、今どうしてる?」

「あー、バイトも無いから部屋でウダウダしてる」

「また幼馴染の本でも読んでる?」

「幼馴染系は至高だぞ? 今度読んでみろ?」

「うん、読んでみるから貸してね?」

「……おっけー、すっげぇ泣けるの選んどく」


 しゃー! オッシャー!

 どうだ! 見事、本借りる約束取り付けたぞー! これを口実に部屋行ったるぞー!


 ガッツポーズを取る私に朱音がジト目で見る。

 あ、そうだった……。


「明日の夜、朱音たちとお祭り行くんだけど行かない?」

「あー、バイトがあるから……」

 ズーンと落ち込む私に朱音がわたわたと慌てながら肩を叩いてくれる。


 だが、彼の次の言葉で急浮上する。

「……ちょっと遅れて合流してもいいか?」

「もちろん! また連絡するね〜」

 そう言って電話を切った。

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