私は恋なんて嫌いだ

第17話彼氏が浮気しました

 進級したばかりの私、雪里美鈴。

 高校3年生の春。

 突然ですが、彼氏が浮気してました。


 即座に絶縁状を叩きつけてやりましたわ〜。

 シャア! コラァ! 舐めんな!


 そういうわけで私は今、少しだけアンニュイです。

 喧騒の中の昼休み。

 幸運にも窓側をゲットしている私は外を眺める。

 新緑の木々が光に照らされ時々反射する。


 嗚呼、この物憂げに窓から外を眺める美少女のわ・た・し……良い。

 美少女じゃないけどね。


 前の席に本物の美少女が座っている。

 名を北条朱音という。

 隣のクラスだが昼休みに遊びに来ている。


 ちょっと前まで朱音ちゃんと呼んでたけど、今では互いに呼び捨てで呼ぶ仲だ。


 憎い! この美しさが憎い!

 その朱音がこちらに気づき小首を傾げる。


 おお……やっぱり可愛いな。

 許す!

 今度真似しよう。


「美鈴、どうしたのよ?」

「どうしたも、こうしたもないよ。人はどうして恋を求めずにはいられないの?」


 ヤツは浮気した、何故だ!?

 モテ男だったからさ!

 いや、もう良いんだけどね。


 私、雪里美鈴の元カレはイケメンだった。


 待て! そこの人! 石を投げるな。

 男なのだが私よりまつ毛が長く顔立ちも良く、身体付きも比較的がっしりしていた。


 運動部でこそないものの、運動会などではヒーローだった。そんなところにやられた女子多数だが、なんで元カレは私と付き合おうと思ったのか、私が1番わからない!


 だが、高校3年に進級して元カレの立山とクラスが別れ、すぐに浮気が発覚。

 元カレとその浮気相手は年明け辺りから半分付き合っているように接近してたらしい。


 そりゃさー、私も元カレに対してよい彼女だったとは言わんよ?

 恋がなにかもわかってなくて、手もろくに繋がない彼女ではなー仕方ないだろうけど、でもさー。


 相手は元カレと同じクラスの美人さん。普段は陽気でその子自体は悪い子ではない。


 その彼女は元カレとは別れたくないらしい。ちょいと色々な行き違いがあって、彼女が直接、私に訴えてきたのが元カレ浮気発覚の真実だ。


「はぁ、私は恋はもう良いかな」

 永遠に付き合うことを想像していたわけではないが、こうもあっさりと別れることになるのは想像していなかった。

 私自身、元カレに全くの未練がないのもいっそ驚きだった。

 ……未練がない理由は別に有るけど。


 机にぐで〜と身体を伸ばしていると、横合いに誰かが立った。


「雪里〜、どした〜? 物憂ものうげだな。はい、これ」

 手にポトリと飴ちゃんを渡してくれたのは、

 倉橋登くらはしのぼる、容姿はまあまあ悪くない。


「かたじけない」

 飴ちゃんをありがたく頂戴する。少し小さめのイチゴ味だ。


 短めの髪に軽い冗談を言って、よく笑わせてくれるとても良いヤツである。こんな風に気遣いも出来る。

 モテる要素はあるのに何処か良い人止まり。

 良い子居たら紹介するからね!


 ……そう思いながら、本当は私が惹かれている。

 そんなわけで登が良い子を紹介されてしまったら私は泣く。


 ああ、そうさ、正直に言おう!

 私は倉橋登に恋をしている!

 ハハハ……、どうしてこうなった……。


 今年の3月に彼に告白された。


 それよりもう少し前から、事あるごとに惹かれ出しているのは前兆があった。

 だから今回の元カレの浮気が無くても、私たちは近いうちに別れていただろう。


 だから人のことは言えないのだ。


 元カレを浮気云々で責める以前に私たちの関係は終わっていたのだ。

 だから結論として、しょうがないよね、で別れることになった。


 どうして人は恋を求めてしまうのか。

 その感情に1番戸惑ったのは他でもない、私自身だ。


 嫌だ! そんな気持ち認めたくないと自己嫌悪を幾日も繰り返し。結局、諦めて元カレに別れを告げようと思った矢先にヤツの浮気が発覚。


 多分、前々からよく観察していれば、彼の浮気は直ぐ分かったのだと思う。


 分かってるよ、私が鈍いのだ。

 人の恋の機微きびなど分かるかー!

 本が好きでそこからは読み取れるが、現実では全く分からん!

 自分の機微も分からんダメ女ですよ〜……。


 去年、2人が付き合いだすまで、朱音が御影くんにゾッコンだったのも気付いていなかった!


 うが〜と頭を抱える。


「大丈夫か? 何かあったか?」

 頭を抱える奇行の私に優しく気遣いしてくれる登。

 嗚呼、好きだー!


「登は朱音たちのこと気付いていた?」

 そこで登は隣のクラスから遊びに来ている朱音に目をやる。


「あ〜、まあな。相談受けてたしな」

「あー、良いなぁ。可愛く赤くなる朱音。見たかったなぁ〜」

「見せない、絶対に見せない! デートしているところなんて見せないから!」

 朱音は力強く首を振る。

 ……ということは、デートのたびに赤くなっておるという事か。


 昼休みも数分で終わることにあって、そこで朱音は颯爽と逃げた。

 周りもガタガタと並べていた机を直している。


 その様子を私の隣でまだ見ていた登に。

「ねえ? 今度、朱音たちのデート尾行してみない?」

「あー、遠くで見守るだけならいいよ」

 私は頷く。

 私も彼女らの邪魔をしたいわけではない。

「じゃあ、決まり。

 朱音からデート予定を聞き出したら連絡するね〜」


 ほいほいと返事して、登は片手をヒラヒラさせながら自分の席に戻るのを、片目でチラ見しながら、私はその日を計画するのであった。

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