第12話学園の女神の恋①

 あれからすぐに谷田と藤崎が付き合い出したことを教えてもらった。


 放課後、あの時の谷田のその後を雪里に聞かれたので、背中を押したことだけ教えた。

「そっか、上手くいったんだ」

 あの2人なら、遠からずそうなっていただろう。


 話をしながら雪里が寒そうに手をこするので、使い捨てカイロをその手にポトリと落としてやった。


 教室に戻って来た御影が俺の方に来た。

「相談乗ってやったんだな」

「まあね。お墨付きを貰ったら相談乗らないわけにもいくまいて」

 ニッと笑う。


「なんの話〜?」

 朱音も話に入ってくるが、流石に具体的な話をするわけにはいくまい。

 でもまあ、一言でまとめると。

「谷田に彼女が出来て良かったな、って話」


 帰ろうとカバンを持ち、全員で教室を出る。

「あれ? 雪里。今日、立山は〜?」

 いつのまにか姿がないぞ?


「生徒会の手伝いだって。3年の卒業で忙しいみたい」

 は〜? 彼女を放ってしょうがねぇな、あいつは。


「ちょっと様子を見に行ってみるか」

 俺で手伝えそうなら立山と代わって手伝ってやるのもよい。


 もっとも立山のコミュニケーション能力は半端ないから、俺で全てを代わるのは無理だができるだけはやってみよう。

 俺は生徒会室のある方に足を向ける。


「あたしら、買い物あるから今日は先に帰るねー」

 御影も頷く。

 仲良く買い物かー、素晴らしいねぇ。

「おー! またな〜」


 そういうことで雪里と並んで人の居ない廊下を歩く。

 冬なので窓は開けてはいないがそれでも随分冷える。人が居ないから余計に寒く感じる。


「これ、ありがとね」

 雪里が俺が渡したカイロを見せる。

「女の子は身体を冷やすといけませんからね〜」

 俺は冗談っぽく返す。


 生徒会室の前に行き、引き戸を開けようと手をかけるが。

 鍵閉まってるな。


「そういや生徒会の手伝いだからって、生徒会室にいるとは限らんわな」

「どうしようか?」

 心当たり、ないよな?


 ふとそんな俺たちのそばの階段を誰かが登っていく。

「ん? 今の元生徒会長?」


 生徒会室のすぐ横は階段になっており、その上は屋上になっている。

 屋上を立ち入り禁止にする学校も多くあるが、うちの高校は禁止していない。


 歴代の生徒がそこで悪さをしていなかったからという理由のほかに、規制するほど最初から人もあまり立ち入らないせいかもしれない。


 元生徒会長の宝生院桜花ほうじょういんおうかは学園の女神と呼ばれるほどの美人だ。名前も豪勢である。もちろん、お金持ちのお嬢様だとか。


「元生徒会長なら、生徒会の手伝いが何処で行われているか知ってそうだな、行くか?」

 そう言って階段上を指差し、雪里に尋ねる。彼女が頷いたので2人で元生徒会長の後を追って屋上に上った。


 屋上の扉はたった今開いた跡があり、扉の隙間の向こうには宝生院桜花と。


 同じクラスメイト、絵の上手い君咲きみさきがいた。

 比較的静かに教室で本を読んでるタイプだ。あまり誰かと話したりはしていない。


 ラノベ仲間として俺は本の情報交換することがあるので、恋愛事情は俺と同じく浮いた話はないことは知っている。


「君咲君?」

 雪里が声を潜ませ俺に尋ねるので、俺は頷いておいた。


 そんな君咲と宝生院桜花は一定の距離で対峙している。


「手紙読んでもらえたかしら?」

「この果たし状のこと?」


 そうか、果たし状か。

 まさに決闘の場であったか。

 君咲は実は伝説の格闘家で、宝生院桜花はその伝説の格闘家と戦うために果たし状を……。


「果たし状?」

「違うのか? だってここに、放課後屋上に来られたし。心の覚悟されたし、と」


 その内容ならラブレターではないな。

 貰ったことないから、どんなのがラブレターか知らないけれど。


「どう聞いても愛の告白ですわよ?」


 宝生院桜花の言葉に君咲のみならず俺もハテナマークだ。


 そこにフワッとした雪里の匂いを感じる。

 急にそんな匂いを感じたことに戸惑っていると、上から少しだけ雪里が覆い被さるように触れて来た。


 今、俺たちは屋上の扉の隙間から、縦に並んで見ているわけだが。

 同じ体勢でいるのに疲れたからだろう。雪里がこちらに覆い被さるように、体勢を変えたのが原因だ。


 半分おんぶをしている状態に近い。

 匂いだけではなく触れた場所が暖かい。

 触れているのは制服だけかもしれないけれど、それでも。


 それと同時に不思議にも思う。

 記憶にある限りでも雪里にここまで接近したことはない。まあ雪里に限らず大概の女性がそうだが。


 雪里が彼氏ではない男に接近するようなことも1度も見たことはない。彼氏以外なら俺と話す時が1番距離が近いかもしれない。


 ま、その距離がさらに近づくことはないわけだが。


 余程、話の内容が気になるんだな。

 それとも俺を父親とか肉親のように信用してくれているのか。


 痛む胸を片手でぎゅっと抑える。

 消えろ痛み。

 俺はそんな気持ちを抑えながら、君咲たちの次の言葉を待った。


「これを見て愛の告白と思う猛者はいないと思うよ?」

「じゃあ、今すぐ理解なさいな」

「ちょっと難しいなぁ」

 宝生院桜花はわざとなのか、高飛車な物言いで君咲の反応も最もだ。

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