第13話学園の女神の恋②

 君咲と宝生院桜花との果し合い……じゃなかった、告白は続く。

 それを覗く俺と雪里。


「大体、なんで俺に惚れる要素があるんだよ?」

「貴方の絵よ」

「絵?」

「そう、貴方がネットにあげた絵を見たの。胸を打たれたわ。それを見ながら泣いてしまうほど」

 宝生院桜花はその時の感動を思い出すように自身の胸に手を当てる。

 そんなに良い絵なのか、是非見たい。


「本名を隠しているのによく分かったね?」

「絵を見れば分かるわ」


 分かるんだ……。

 俺絶対、分かんねぇ。


 宝生院桜花はそこで彼をスッと真っ直ぐに見つめた。

 いっそ空気すら凛とするほど。

「君咲友希人君。私は貴方が好きよ。

 私のものになりなさい」

「断る」


 いや、断るんかーい!!!

 頭の上にいる雪里もガクッとして、密着度が増す。


 ふっおおおお!?


 音がしないように力を込め支える。

(あ、ごめん)

 雪里に耳元で囁かれる。


 雪里さん、そっちの方がヤバイです。

(ごめんごめん、重かったよね)

 顔が真っ赤になったのを勘違いしたのか、雪里は俺の上から退く。


 あー。

 温もりは消え肌寒く感じる。

 主に心が。

(いや? 全く重くなかったよ)

 体重かかっていた訳でもないしな。


 あ、宝生院桜花がこちらをチラッと見た。

 気づかれたかな?


 しかし宝生院桜花はこちらをとがめるでもなく、彼に食い下がる。

「何故です? 自分で言うのもなんですけど、容姿は良い方だと思っていますわ。他に好きな人がいるの?」


 宝生院桜花は名前の通りに口調も独特だよな。

 それが逆に昨年の彼女の生徒会長としての人気を決定づけていた。


「宝生院さんは綺麗だと思うし、他に好きな人も居ない。けど……」


 けど?


「今は誰とも付き合う気は無いんだ」

「だったら! 友達から! 友達からお願いします!」

「いや、そういうのは……悪いけど」


 そういうのってどういうのだ。

 つまり、……ダメか?

 雪里も手をギュッとして見守っている。


「だったら1ヶ月だけ……。私が卒業するまでの時間だけチャンスをくれない?」

「1ヶ月だけ?」

「そう、1ヶ月。それで十分だから」

「……分かった。俺のことを知って失望させると思うけど、それで良ければ」


 パァ〜っと花が開くように、宝生院桜花は笑った。それは1つ上の大人びた美人ではなく、年相応の恋する少女の顔だった。


 俺は抑えていた胸元をまたギュッと強く握り、歯を食いしばる。

 その恋に寿命がつけられたことに気づいてしまったから。


 1ヶ月後、彼女の恋は……死ぬ。


 よろしくと互いに握手を交わし宝生院桜花は足取り軽く、颯爽さっそうと扉にやって来た。


 俺たち2人に逃げる暇はなかった。

「「「あ……」」」

 宝生院桜花は見られたことに気づき、顔を真っ赤にして階段下へ走るように逃げ去った。

 それは学園の女神など関係なく、とても綺麗で可愛かった。


 君咲も扉の側までやって来てすぐに俺たちに気づいた。

「見てたのか」

「悪いな。たまたまだが見てしまった。もちろん誰にも言わない」

 雪里も握りこぶしのまま、顔を赤くしてコクコクと頷く。


「……俺が言うことでも無いが1ヶ月真剣に付き合ってあげてくれ」

 報われない想いのために。

「ああ、分かってる」

「相談ごとは何でも乗る」

 雪里も握り拳のまま、コクコクと頷く。

 雪里さん? もうその握り拳はいいんじゃない?


「機会があったら頼む」

 君咲は苦笑いを浮かべてそれだけ言って、階段を降りていった。



 見送ってしばし。

「生徒会の手伝いの場所を聞ける雰囲気ではなかったしな。帰ろっか」

「私、人の告白見たの初めて」

 興奮冷めやらぬ彼女は、今しがた2人が降りて行った階段を見ながらそう言った。


 俺は優しく笑っただけで、それについては何も言わなかった。

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