第5話幼馴染の恋①

 恋は素晴らしい。

 そんなことを言える奴は本当に凄いと思う。

 残念ながら、俺はいつまで経っても、そんな気にはなれない。


「幼馴染に絶望した!

 幼馴染として雪里が現れたまでは良かったが、その後、俺に幼馴染が居ない現実に絶望した!」


 立山浩二たてやまこうじ雪里美鈴ゆきさとみすず北条朱音ほうじょうあかね御影雅人みかげまさとと俺こと倉橋登くらはしのぼるの5人は夕暮れの教室で集まって、俺があの日のことを過剰にふざける。


「幼馴染ってそんないいものかなぁ?

 ねえ、雅人?」

「そうだな。少なくとも、朱音が俺を起こしに来たことは無いぞ?

 隣の家なのに。

 気づいたら一緒に寝てたことはあるが。」


 朱音は正統派黒髪美少女とでもいうか、は長い黒髪の物静かな楚々とした雰囲気を感じさせる。


 料理などはそこまで得意ではなく、御影をいつも料理の実験台にしているとか。御影がぼやいている。


 御影は隠れスポーツ万能。自分を隠キャでオタクとか抜かす。貴様が読むライトノベルやアニメは、俺は全て完全網羅しておるぞ!


 それだけではなく、意外とイケメン、前髪垂らしているが、隙間から色気が見える。

 憎い、憎いぞ!


 俺が幼馴染熱の流行病にかかったのは、コイツらのせいだと言っていい。

 ……と言っても二人ともとても良い奴らなんだけどな。


「ま、仲良くしているようで、何よりだ」

 でまあ、この二人は付き合ってはいない。

 実際のところ、その辺りの感情がどうなのか、見ている俺にはさっぱり分からない。


 別段、手と手が触れ合って照れたりとか、恋愛的な感じは見えてこない。

 俺が鈍いだけなのかもしれんが。


「さっさと付き合っちまえばいいのにな、お前ら」

 笑いながら、からかうようにそう言った立山。


 陽キャというのかな。

 精悍な顔立ちでイケメン。

 特に部活はしていないが、運動神経も悪くない。


「ま、無理強いするもんでもないけどな。

 進路のことで先生に呼ばれているから俺、先に行くわ」

 俺はそう締めくくって、鞄を手に取り立ち上がる。

 見上げる四人に、またなと声をかける。

「じゃ、明日、いつものカラオケの前な」


 遊びの約束にオーケーと言いながら、俺は教室の扉から片手を振りながら出て行く。

 チラリと窓から振り返ると四人は楽しそうに笑っていた。


 ま、脇役なんてこんなもんだよな。


 廊下の窓から夕暮れが見える。

 秋は日が沈むのが早い。


 部活途中の男女がすれ違う。


 帰り間際の玄関で朱音に会った。

 日も傾くのが早くなり、いつまでも残っているとあっという間に真っ暗だ。


 大学に進学するつもりなので来年になれば、早々に受験に入る。

 のんびりとバイトや遊びに精を出せるのも僅かだろうな。


 その頃には、雪里への恋も終わりを迎えられているだろうか。





 先生との話し合いも終わり、玄関で靴を履いているところに朱音に呼びかけられた。


「あ、倉橋〜。

 今帰り〜?」

 朱音あかねはいつもの陽気な声で呼びかけてきた。

 その隣には彼女の幼馴染である御影の姿はない。


「おー、御影はどうした?」

「私と雅人セットみたいに言うのやめてよね?」

「違うのか?」


 隣の家というあり得ない立地条件の割に、行き帰りは共にしていないのかもしれない。

 教室内で見る2人の姿は全体の1部でしかない。

 流れで反論した朱音は俺の素の反応に鼻白む。


 本音を言えばこの2人には上手くいってほしいが、この2人がお互いを本当にどう思っているかはわからない。セットであって欲しいのは、俺の願望に過ぎない。

 言っている通り、意識した関係ではないのかもしれない。


 だが朱音の次の言葉は、少なからず朱音は意識していることが伺えた。

「そう、見える……?」

 おずおずと可愛い見た目のわりに自信のなさがうかがえている。

 御影は用事があったらしく、あれからすぐに帰ったらしい。


「そうだな……、ちょっと帰りながら話しでもするか?」

 朱音は頷く。

 誰かに聞いて欲しかったのだろう。

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