第6話幼馴染の恋②

 朱音とは雪里と同じように2年の時から仲良くなった。

 1年の時から御影とは同じクラスなので存在は知っていた。幼馴染がいて随分、羨ましいという話はした。

 しかも朱音は見た目だけなら完全無欠の美少女である。


 2年になって5人で同じクラスになった時も、御影と話をしていると自然に話に入って北条と呼ぶと、朱音でいいよ〜っとあっけらかんと言われた。


 誰にでもフランクという訳ではなく、御影と仲が良かったから信用していたと後で聞いた。


「2人はいつから幼馴染なんだ?」

雅人まさとからは聞いたことない?」

「御影本人の話はともかく、朱音とのそういう話はあまり聞いたことないな」


 俺の回答を聞いて、朱音は分かりやすく凹む。

「そっか……、私のことは何も話さない、よね……」

「勘違いするなよ?

 聞いてないだけだ。聞いたら教えてくれるだろうな。そもそも御影がそういう話をする奴じゃない。色恋自体聞いたことがない」


 ふう〜と色っぽくため息を吐く朱音。

 悩める乙女だなぁ。

 思えば2人で帰るのは初めてだな。

 商店街に向かうために、近道となる公園に差し掛かる。

 その公園で休憩する。


「物心ついた時からかなぁ」

 ん? ああ、物心ついてから既に幼馴染なのか。

「傍目には既にオシドリ夫婦なんだがな、デートとかしてないのか?」

 顔を真っ赤にしてブンブンと横に首を振る。


「そうか、2人で出掛けたりって難しいか?」

「私は良いんだけど、雅人はどう思っているか……」

 聞いているだけで、むず痒くなってくるな。

 世の幼馴染好きは血の涙だなぁ。

 ……というか既に俺が血の涙なんだが、おい?御影早くなんとかしろ!

 このままじゃ、俺が悶え死ぬ。


「決して無理はするもんじゃないが、まず一緒に買い物とかどうだ?

 近場で簡単になら誘いやすいんじゃないか?」

 望んでいないなら本当に余計なお世話な可能性もある。クールに行けよクールに。勢いつき過ぎて2人の関係がこじれたなんてことになったら、申し訳なさ過ぎて切腹出来る。


「そっか、そういうので良ければ、行けるかなぁ」

「これは幼馴染とか関係なく、本当に好きなら迷わない事かな。

 どの口が言ってるんだ、て感じだけどな!」

 これは言っている自分にこそ響く。

 好きになった最初に告白していれば、こんなに引きづることにならなかっただろうに。


 何度過去に戻っても、きっとあの頃の俺にそんな行動力はなかった。

 そんな自信は今も、ない。


 とにかく迷って変な男に捕まったりするなよ!

 悪い男はいっぱいいるんだぞ!


「倉橋は好きな子いるの?」

「居るよ、永遠の片想い」

 心臓が軋むほどの痛みを抱えながら、俺は苦笑い。

「だからかな。幸せを掴めそうな奴らは幸せになって欲しい。言っておくが恋愛で好きな相手は朱音じゃないぞ?」

 言い切っておかないと相談しづらいだろ?

 朱音には分かってるよ〜と笑われた。

 

 それなら相手が誰か、なんてのは気づかないでいてほしいな。

 朱音とはそこで解散した。





 そこから数日後、事あるごとに俺と2人になると朱音は御影のことを惚気のろけてきた。


 誰かに言いたくて仕方無かったらしい。

 そもそも中学の間は一時疎遠になっていたらしい。

 例に漏れず幼馴染のジレジレ感に苦しんでいたとか。


 放課後の教室、御影の委員会待ち。雪里は用事があって先に帰宅。

 立山は生徒会の手伝いに参加するようになり、委員会が頻繁に行われている。生徒会候補なんだろう。イケメンだから似合いそうだ。


「意外だな? 疎遠な時があったのか。俺と話すようになったときはもう今の感じだっただろ?」

 あはは、と朱音は快活に笑った。

「あれって倉橋のお陰よ? 一年前の初めて話した時の」

 朱音は懐かしそうに目を細める。


「俺の? ……あれか? 御影に幼馴染が居るって言うから、乗り込んで話かけに行ったアレか?


 話したら話したで、御影と朱音と、普通に名前呼びで話してたよな?


 やっぱ幼馴染って仲が良いもんなんだなと見てたんだが。」


 その日のことがとても嬉しかったのだろう。

 思い出したように笑う。

「あの時まで2年間ぐらい雅人とはまともに話せてなかったから。当然、行き帰りも一緒になんてしてなかった」

「2年もブランクなんて感じなかったがなぁ〜」

「そんなものなのかもね。キッカケがあれば戻れるけど、そのキッカケを待っていてもその機会が無くて、そのままというのがほとんどかも。

 一緒の学校行きたくて、私はここに入ったんだけどねぇ……」


 乙女だ。

 何というか乙女がいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る