第7話幼馴染の恋③

 ここ最近、怪しいのだ。

 誰って?

 朱音ちゃんと登が!


 今も2人しかいない教室でなにかを話して笑い合っている。

 ぐぬぬ、私も混ぜろ。


 いや、用事があるから先に帰ろうとしたんだけど忘れ物して戻ったら、そんな現場を見てしまったのだ。


 なんとまさかの幼馴染寝取りが発動してるのではあるまいな。


 私、名探偵美鈴はいまも授業終わりに、ヒソヒソ話をして微笑みあっている2人を見て胸が痛い!


 胸が痛い?

 私は自分の心臓のあたりを軽く押さえる。


 朱音ちゃんと幼馴染である御影君との関係が心配で心が痛いのだな。

 でも心が痛いとか、物理的に締めつけられるような感覚あるんだなぁ〜。


 廊下の窓から半分顔だけ出して中を観察中。

 廊下に人が居れば不審人物認定間違いなし。


 幸い、廊下には誰もいない……と思ったところで、よりによって御影君が姿を見せた。


 彼も先生に呼ばれて荷物を持って、先に教室を出たはずなのに!


 私はこの危険な状況を見せないように御影君の前にシュタッと踊り出た。

 誤字ではない。


 手をカクカクとさせて、その場でくるりと1回転。

 最後にビシッと指を伸ばしてポーズ。

「や、やあ、奇遇ですネェー、御影君!」

「……どうしたんだ、雪里」


 御影君は相変わらずクールで、自分で言うのもなんだが奇行に走った私にツッコミを入れることなく、不思議そうにそう返した。


 声をかけたが、どうしたもこうしたも私に深い考えはない。

 とにかく足止めしなければと思ったままに行動してしまったのだ。


 ちょっとは考えろよ、私。


 救いの女神(?)は背後から現れた。


「あれ? 美鈴と雅人?

 まだいたんだね、用事が終わったなら一緒に帰らない?」


 当人が教室から出てきたのだ。


 もうちょっと用事があるからと伝えると、朱音ちゃんと御影君は2人は仲良く良い雰囲気を醸し出して帰って行った。


 私は残った登の前に行き、ジト目で朱音ちゃんと2人でナニをしていたのか尋ねる。

「話してただけだぞ?」

 そこにはやましいものはナニもないという顔。


 婦女子と2人っきりで教室にいて、ナニもないと言い張るか!


 私は今現在、登と教室で2人っきりであることを棚に上げてジト目で呟いた。

「怪しい……」


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 さらに数日後、冬休み前日。

 今日も2人だけ。

 他3人とも用事があり、既に帰宅。

 そうだよ、俺はずっと予定がねぇよ。


 バイトは今月はシフト調整の為、土日のみ。

 今月、つまり12月は繁忙期なのだが、何故か大学生の先輩バイト2人が鬼のようにシフトを入れているからだ。

 事情は知ってるけど。


 それはともかくとして、俺は由々しき事態に頭を抱え込んでいた。

「ど、どうしたの、倉橋。いきなり塞ぎ込んで?」

 教室内で2人になったところで、俺が目の前でいきなり頭を抱え込むものだから、朱音も困惑する。


「緊急事態だ。朱音、今夜御影に夜這いしろ」

 ノータイムで教科書で頭を叩かれた。

 おい? ノータイムで教科書でツッコミどういうことだよ!

 いつのまに教科書用意してた!


 ちょっと痛くて悶える。


「いきなり何言い出すのよ。アンタは」

 真っ赤な顔で朱音は訴える。

 ついにアンタ呼びになった。


「待て、言った筈だ。緊急事態だと」

 小首を傾げる朱音。

 狙ってやっているとしか思えないほど可愛い仕草。


「俺たちが怪しい関係だと噂が流れている」

「そんな訳ないじゃん?」

 うん、そんな訳はない。

 だがこれは実に当然の帰結なのだ。


 幼馴染失恋パターン最多の実例なのだ!

 俺自身も当事者になり、ここまでの事態になるまで気づかなかった、恐ろしい事例なのだ。


 今日、雪里がやけに睨んでくるから、何かしてしまったのかと尋ねたら、最近よく朱音と2人っきりで何か話しているよね。怪しい〜、と言われるまで気付かなかったほどだ。


 そのことを朱音に説明。


「ど、ど、ど、どうしよー!?

 ねえ、どうしよー」

 朱音はすっかり狼狽して、蒼白な顔に目に涙が溜まっている。


「落ち着け! まだ慌てる時間じゃない!」

 さっき緊急事態と言ったけど。

「そこで起死回生の一手、夜這いだ!」

「出来る訳ないでしょ!?

 馬鹿なの? ねえ、馬鹿なの!?」


 酷い言い様だな、おい。


「御影の家に泊まって隣で寝たことあるんだろ?」

 そんなシチュエーションまでいっておいて、何故夜這いが出来ん!


「あれは遊んでたら寝ちゃっただけだもん!

 狙ったわけじゃないから」

 もんって、あんた、もんって。


 いかん、動揺させ過ぎた。

 朱音が幼児退行してる。


「落ち着け、落ち着け、ひっひっひふー」

「ひっひっひふー」

 ラマーズ法を朱音も真似する。

 今更だけどこの子素直だなぁ。悪い男に騙されないように注意しな?

 俺が悪い男ならアウトだぞ?


 落ち着いて聞いてみると、初恋も御影なら現在恋している相手も御影なので、恋愛には疎いそうな。

 なにそれ?

 血反吐を吐くほど羨ましいんですけど?


「大体、俺に相談する前に雪里とか恋話しなかったのか?」

 そうしたら今、こんな事態にまでならずに済んだかもしれないぞ?

 今までそれに意識がいかずに、ずっと2人っきりで相談に乗っていた俺も大概だが。


「美鈴は……恋愛疎いから。

 多分、私が雅人を好きなことも気付いてないと思う」

 なぬ? 馬鹿な。

「雪里は彼氏持ちだが?」

 恋愛疎いとはなんぞや?


「あの子、見た目は垢抜あかぬけたけど今でも鈍いままだから……」

 朱音も大概心配な娘だが、雪里も心配な娘でした。

 俺、自称お父ちゃんとして頑張るよ……。

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