第8話幼馴染の恋④
「とにかく、誤解を早急に解くのだ!」
それを言われて、ようやくその危険性が伝わったのか、朱音は慌て始めた。
「ど、ど、ど、どうやって!?」
だから夜這い……って俺も動揺しているらしい。
再度落ち着こう。
ひっひっひふー。
「こういう時は正攻法が1番正しい。
誤解を与えず真っ正面から告白だ!」
「出来るかァァアアアアア!!」
スパーンとまたしてもノータイムで教科書で叩かれる。
何で!?
今の至極真っ当な話だけど!?
目をパチクリさせる俺に朱音は真っ赤な顔。
「それが出来るなら、最初から相談してない……」
ボソボソと呟く。
あー、そりゃそうかも知れんが。
「言わないと伝わらないぞ?」
朱音は真っ赤な顔で下を向き、何かをグッと堪える。
この姿を見せられるならすぐに伝わるだろうけどな。
残念だが今、ここに御影は居ない。
むしろ誤解が広がりそうなシチュエーションだ。
タイミング悪く廊下を誰かが走り去る。
ただの通っただけか、それとも……。
いずれにせよ。
「ならば、デートに誘え!」
「で、で、デート!?」
「そうだ、それならば告白よりも言いやすい筈だ。
しかも! 朱音と御影は幼馴染。デートの口実も他の人より遥かに容易い筈だ。
もっとも不味いのが誤解を与えたまま時を無為に過ごすこと。
およそ9割もの幼馴染がここの誤解を解けず脱落している。脅威の脱落率確率90%以上だ」
「脱落率確率90%、以上……」
ゴクリと朱音が息を飲む。
そのあまりの脱落率に恐怖を感じているようだ。
まあ現実ではなく小説とかの話だけど。
現実ならそもそも疎遠になった幼馴染が復活することが少ない。
そう、彼女らは既に奇跡は起こしているのだ!
「逆に考えろ。今だ。今なんだ。
今、この時を勇気を出せば、御影を手に入れることが出来る。
これは全てを失うか、たった1つの勇気で御影を得るか……。
そういう選択だ」
「倉橋……」
「うむ、先生と呼べ」
朱音はプルプルと震える。
うむ、俺の熱意が伝わったか。
「呼べるかー!」
「なんだとー!」
ちゃぶ台返しならぬ机返し、のフリ。
本当に返したりはしていない。
「そもそも雅人がどう思っているか分からないから悩んでるのに!
そんなこと出来るかー!」
「だが、聞かねば。
ここで言わねば彼は誤解をするぞ?」
俺は真剣に朱音の目を見る。
失って良いのか、と。
「辛いが想像してみろ。彼が誤解をし、もし別の女性に奪われた時のことを」
「……嫌だ」
「そうだ。人には絶対に失いたくないものの為に勇気を出さないといけない時がある。
それが今だ。
安心しろ朱音、お前は誰よりも御影の側にいる。
そして、1番大事なことはお前が御影を1番に想っていることを自覚していることだ。
さあ、一歩を踏み出せ。
他の誰よりもお前にはその資格も立場もチャンスも備わっている」
俺は指を天に向けて未来を示す。
その先には白い天井しか見えないが、まばゆい明日が見えるはずだ。
朱音は俺の言葉を聞き震えていた身体を止めた。
俺の言葉を
朱音は顔を上げる。
その目には意思が備わっていた。
俺は頷く。
「行ってこい。骨は拾ってやる」
どうやって拾ったらいいか、全く想像が付かないけれど。
朱音は再度頷く。
「行ってきます!」
カバンを片手で持ち、真っ直ぐ前を見て教室を出て行った。
その背を見送り俺は呟く。
「背中押したけど、御影がどう想ってるか確認しておけば良かったな……」
恋心に一方的に火をつけさせてしまったが上手くいく根拠はないよなぁ、と。
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