第3話幼馴染の気分を味わった
ああ、やっぱ可愛いな。
俺がそう思うのは仕方のないことだ。
「
彼女一人というのは、流石におかしい。
「まだ来てないよ?」
特に警戒した風もない彼女に、じゃあ、一人で男の部屋に入るのはダメじゃないか、とは口にしなかった。
立山と他の仲間共々、俺の部屋に上がり込み夜通し話し込んだりした日もあった。
俺の隠した想いは別にして大切な友人の1人だ。
それを信用してくれているのだろう。
雑多ないつもの俺の部屋に彼女が居る光景を本当はいつまでも見ていたかったが、そういう訳にもいかないと自分に踏ん切りをつけ、ベッドの枕元にある携帯を弄る。
コールが暫し。
なんでもない普通の顔する彼女を、横目に焼き付けながら。
「……はい」
「立山〜。彼女来てんぞ? 何処だ〜?」
家……と遅れて返事。
寝てやがったな?
お前らこれからデートだろうが。
「雪里〜。アイツ寝てやがったぞ?
しゃあねぇから、迎えに行ってやれよ」
彼女は、しょうがないね、と笑って部屋を出る。
しょうがないね、とは彼氏に向けての言葉だよな。
モノクロームの室内から、淡い色の服は消える。少しだけの残り香は俺を落ち着かなくさせる。
「お邪魔しました!」
口を履き扉を開けてから彼女は振り返り、俺に敬礼する。
俺も片手で返礼する。
扉の外は眩しい太陽が辺りを照らし、秋口の雲一つない憎らしいほどの快晴だ。
「お〜、なんのお構いも出来ず悪いな。今度、なんかお礼するわ。お陰で幼馴染がいる気分を味わえた、サンキューな〜」
笑って彼女を見送る。
立山の彼女も笑顔を返し、じゃあねーと部屋から出てすぐの階下へ降りて行った。
俺は殺風景な廊下を眺め、彼女が戻って来る様子がないのを確認して扉を閉め……鍵をかける。
ふらふらとベッドの方へ戻る途中、少しだけ彼女が居た匂いを感じた。
ベッドに力尽きて倒れる。
「最悪……」
幼馴染の気分がどうのなんて、昨日言ったことを激しく後悔した。
何処まで行っても彼女は友達の彼女で、俺の恋は、また実ることが無い。
クソッタレな気分だけを、想いが消えるその日まで耐えるだけなのだ。
だから本当に俺は恋が嫌いだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「お邪魔しました!」
靴を履き扉を開けてから私は振り返り、登に敬礼する。
登も優しい笑みを浮かべ片手で返礼する。
なんか良いなぁ〜、このノリというか雰囲気というか。
扉の外は眩しい太陽が辺りを照らし、秋口の雲一つない快晴で、私も気分が晴れやかになってくる。
「お〜、なんのお構いも出来ず悪いな。今度、なんかお礼するわ。お陰で幼馴染がいる気分を味わえた、サンキューな〜」
笑って見送ってくれるが、私はなにもしていない。
マジで何もしていない!
それで良いのか、登よ!
……まあ、なにかされても困るわけだけど。
そもそも登は人が嫌がるようなことはしない。
逆に彼氏の方が危ないと私の美鈴センサーは伝えている。
ともかく私は笑顔を返し、じゃあねーと部屋から出てすぐの階下へ降りて行った。
私はこの後、何度もこのときのことを想い出す。
私の馬鹿さ加減がよく出た行動に身悶えするほどの後悔する。
私は高校2年にもなりながら幼過ぎたのだ。
同時に。
この日、この瞬間のことを、私は何度も焦がれる。
あの残酷で心を狂わせてしまう恋のせいで。
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