9話 はじめての店番
「今日は受付してみない? 」
メイサが、トキジロウにダンジョンの受付業務を教えるという。
ハンターが来たら名簿に名前を書き込んでもらい入場料を受け取る。
名前の記入は、戻らなかった場合(死亡)の確認のため。
入場料は銀貨五枚。
昨日行った、ダンジョン地下街の近くにあったハルマンという男の入場料と倍以上金額が違った。
理由はあった。
ハルマンのダンジョンは、初級ハンターを相手に商売している十九階層ダンジョン。
メイサが管理しているダンジョンは、三十九階層の中級以上のハンターを相手に商売しているダンジョンだった。
十階層ごとにドロップするアイテムの質が倍近く変わってくる。
メイサのダンジョンは精霊スキルを使った【構築】で受付カウンターに各階層から精霊電話が設置されていた。危険があった場合、ヘルパーのマグロースが救出に行く。受付で、銀貨五枚プラス銀貨五枚、銀貨十枚でヘルパーを必要な時は無料で呼べる。保険料という訳だ。
入場料の、銀貨五枚だけでヘルパーを呼ぶと追加で銀貨十枚取られる。
無理をしたモンスター狩りじゃなければヘルパーは必要ない。
保険の銀貨五枚は無駄。
だが、自分の力を見極められないハンターは実力以上の階層に上がり手痛いしっぺ返しを喰らうのだ。
ヘルパーを呼ばず、そのまま死ぬのも銀貨を払って救出してもらうのも潜ったハンターの自由。
他にも、好きな階層へ転送してもらう精霊転送サービスや入り口転送札の販売をしていた。これらの収入が馬鹿にならなかった。
精霊魔法士のメイサが管理人ならではのダンジョンの人気は高かった。
ハンターにとってダンジョンは魅力ある稼ぎ場。
ドロップ量、生還率、換金率、どれも最高値だ。
町の外でモンスターを討伐しドロップを狙う事が出来るがリスクが高い。
町中に存在するダンジョンなら各サービスが受けられる。
チュウがバラック小屋の裏から姿を現した。
大型トカゲのブリッシュが引く馬車で通勤しているチュウ。
カウンターに足を乗せながら煙草を咥えるトキジロウと目が合うチュウ。
「お… おはよう」
チュウがトキジロウに挨拶をした。
「おう アライ チュウ トカゲで通勤してんのか? 」
「うん… 」
滅多打ちにされたトラウマからか、まだ馴染めない様子のチュウが返事した。
「へぇ… たいしたもんだな 一人暮らしか? 」
トキジロウは、チュウを手招きし自分の隣に座らせ彼是と聞きだした。
「うん 町外れの家を借りてるよ」
「へぇ 大変だろ? 一人暮らしは」
「ううん 食事と家賃は、ここの店番でやっていけるし困っていないよ」
「そうか… 何かあったら言ってこいよ 相談には乗るぜ」
「うん ありがとう 話してみると案外優しいんだね」
「そんなことねえよ… 」
トキジロウは少し照れ臭そうに雲一つ無い、真っ青な空を見上げた…
埋められたという新井を思い出していた。
新井 忠…
メイサが弁当屋から帰ってきた。
「チュウ おはよう~ 弁当食べよう」
「おはよう マスター」
メイサは、チュウの横に座るトキジロウを見て言った。
「チュウをいじめてなかったでしょうね? 」
「してねえよ」
「うん 優しいよ」
「そ… そう? なら良かった」
にこりとするメイサ。
「ねえ マスター」
「何? 」
「何か良い事あった? マスター 何時もと違って嬉しそう」
「えっ!? そ… そんな事ないから」
チュウは鋭かった。
メイサが少し赤くなって、チラッとトキジロウを見た。
トキジロウは、ポカーンと煙草を咥え空を見ながらチュウに言った。
「アライ チュウよ…… 大人には色々あるんだよ 子供に解んない事が」
「ボク、大人だよ」
「――!? 」
トキジロウは【鑑定】発動。
チュウを見ると年齢が見えた。
(二十九!? こんな姿だから十五くらいと思っていたんだが… 俺より年上かよ 職業… テイマー!? 動物を使役する!? ちょ… アライグマのお前が動物を使役するって!? 意味が解らん…… )
興味を引くスキルが無かったのか、トキジロウはチュウの鑑定を止めた。
立ち上がり弁当を持つとバラック小屋に向う。
通りが見える場所に座り弁当を食べはじめたトキジロウ。
弁当を半分も食べたころ魚亜人マグロースが出勤してきた。
「マスター おはよう」
「おはよ マグロース」
マグロースがトキジロウの顔を見て近づいてきた。
「おはよう トキジロウさん」
マグロースがバラック小屋の入り口で立ち止まり挨拶する。
「お… おお おはよう」
トキジロウは焦った。
(な… なんだよ マグロ わざわざ挨拶なんてしなくていいから… マグロ 怖いわ… )
「トキジロウさん オババが 話があるらしい」
「えっ!? 俺にか? 」
「スキルに関する話があるとかで 詳しい事はオババに聞いて欲しい」
(一体、何だ!?…… 聞きに来いって事か? )
「わかった あ… ありがとうな」
「でわ」
マグロースは、ペタンペタンと足を鳴らしカウンターの席まで歩くと、ワカメ弁当を手に取り椅子に座って食べはじめた。
「何かしらね オババ 今日も肉… 硬いわね」
肉を噛み千切るメイサ。
昨夜の色気は、何処にいってしまったのか…
落胆の色を隠せないトキジロウ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます