8話 野獣
刑務所に服役していた習慣からトキジロウの朝は早かった。
起きたトキジロウに頭痛が襲う。
酷く痛む……
そして、昨夜の記憶が無かった。
頭を抱えるトキジロウの姿は上半身裸、下半身は下着だけ。
布団から抜け出しベッドに腰掛けたまま頭を抱えていた。
頭を抱え、後ろを振り返ってみると女の後頭部が目に入った。
さらさらの、肩より長い黒髪が少し乱れている。
布団の中で後ろ向きに寝ている女が寝返りを打つ。
長い睫毛、スッと通っている鼻筋、少し厚めの唇。
ほんのりと色香が漂う女は、一糸纏わぬ姿を曝した。
(なんで… なんでメイサと寝てたんだ 俺はあああ!? )
再び、背中を向け考えるトキジロウ。
「おはよう…」
後ろからメイサの声がした。
背中を向けたまま顔だけ振り返るトキジロウ。
メイサと目が合う。
メイサが顔を赤らめながら小声で言った。
「トキジロウ…… 凄かった… 」
(えええぇぇぇっ!? 何、凄かったって!? 何も記憶がねえんだけど!! )
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―――― 昨夜
雑貨屋の帰り弁当を買ってバラック小屋に戻るトキジロウ。
日が沈みはじめる。
メイサの精霊スキル【構築】が発動。
ダンジョン入り口に設置されているランタンに火が点りはじめた。
メイサにスキル詳細の説明を聞くトキジロウ。
精霊スキル【構築】は、【鑑定】スキルで大雑把な内容は把握しているが、具体的にどうすると電話になるのか、転送になるのかが解らなかった。
精霊電話の作り方を教えるメイサ。
作製には触媒が必要になる。
触媒になる鉱石(例)を用意して2つに割る。
割った鉱石を同時に手で触れながら【精霊電話:構築】スキル使用。
完成。
この流れで作成可能と言うメイサ。
メイサのダンジョン内に設置されている精霊電話の触媒は、魔石。
粗末な箱に2つに割った魔石を入れ。
箱の表面に"○"と"×"の印を付け【精霊電話:構築】スキルを使用する。
"○"に触れれば受信、"×"に触れると切断。
受信音や通信距離は、作成者によって異なるという。
精霊魔法士は希少。
ダンジョンやハンター協会、国の機関以外での精霊電話の利用は皆無。
ほとんどが、動物を使役し伝達という形で知らせるという。
「そんな事より、飲めるんでしょ?」
話を切り上げ酒を飲もうとメイサが言った。
トキジロウは服役していたので、飲む、打つ、買う を、絶っていた。
自由の身になったトキジロウ。
酒も飲みたい、ギャンブルもしたい、女も抱きたかった。
メイサの一言で己の欲望を開放する時がきた。
「酒あるのか? 」
「口に合うかどうかは解らないけど あるわよ」
「飲もうじゃないか! 」
すでに、ダンジョンの入り口は鎖で閉鎖されていた。
チュウとマグロースはトキジロウが買った弁当を食べ帰宅。
バラック小屋には、トキジロウとメイサしかいない。
弁当屋でメイサが買ったサラダと唐揚げをつまみに酒を飲む。
……
二時間は経ったのか… トキジロウは、今にも酔い潰れそうになっていた。
数年振りに飲んだ酒に悪酔いしたのか、ふらふらとベッドにダイブする。
「ふぅー 効くな… 数年振りに飲んだら回っちまったぜ」
ベッドの上で、大の字になるトキジロウ。
その様子を見ていたメイサが言った。
「ちょっと! トキジロウ… そこは… あたしのベッドなのよ! 」
メイサも、かなり酔ってる。
昼間と様子が違う。
酔っているせいか、妙に色気を感じる。
メイサは、トキジロウの上にダイブしてきた。
「うえっ!? ちょ…… 苦しい」
「フッフフ フー…… ああ… 気持ちいい…… 」
トキジロウの上で胸を押し当て動きだす……
トキジロウも欲情してきた。
メイサの髪に、自分の指を絡めキスをした。
「辛抱… 辛抱! たまらん!! うおおおぉ!! 」
トキジロウは、欲望のまま吼えると体を入れ替えメイサに覆い被さった。
この辺で記憶を無くすトキジロウ。
……
朝が来た…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(凄かったって… 何をしたんだ俺は 記憶が無くて、もったいねえ! )
「お… おはよう」
メイサに挨拶を返すトキジロウ。
布団から起き上がるメイサ。
「俺… 何か凄い事した? 」
記憶が無いトキジロウがメイサに聞いた。
「そうね… 一言で言うと…… 」
一瞬、間が開くメイサが蕩けた目で続けた。
「一言で言うと…… まるで、『野獣』だったわ… 」
(――!? 野獣…… )
「さあ! 今日も仕事よ トキジロウ!! 稼ぐわよ!! 」
「お… おう」
メイサは、全裸で立ち上がり服を着るとダンジョンの入り口に向った。
その様子に、拍子抜けしたのかトキジロウは笑いながら服に着替えた。
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