7話 スキルで内職【アタッチメント】
バラック小屋に戻ったトキジロウとメイサ。
メイサが山積になっている箱からアタッチメントを取り出した。
アタッチメントの形態は100円ガスライターを平べったくした感じだ。
「これに属性を注入して売るのよ」
言っている意味が解らないトキジロウ。
ポカーンとメイサの話に耳を傾ける。
「さっきの魔法習得で各属性を獲得したのは理解できる? 」
「ああ… 何となくだけどな」
「じゃあ 説明はいいか 見ててね」
メイサが、アタッチメントを手に握りスキルを発動する。
【風:アタッチメント】
アタッチメントの色が薄緑に染まっていく。
四大属性の説明は帰りの馬車で受けたトキジロウ。
「これで完了よ アタッチメント一枚、銀貨三枚で売れるわ」
(銀貨三枚…… その価値は、焼肉弁当で換算するとどれくらいになるんだ? まったくわからんのだが… )
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――――――――――――
通貨設定
銅貨===銅貨三枚で焼き肉弁当1個
ハーフト銅貨===銅貨50枚分の価値
銀貨===銅貨100枚
ハーフト銀貨===銀貨50枚分の価値
金貨===銀貨100枚
(以下省略)
――――――――――――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「焼肉弁当が何個買えるんだ? 銀貨三枚って」
トキジロウがメイサに質問する。
「焼肉弁当100個ね だけど、アタッチメントの料金を差し引くと60個くらいね 仕入れが一枚、銀貨一枚だから でも、うちのダンジョンは中級者以上を対象にしているから 一日、一枚なんて事ないわよ」
メイサが言うには、初級ダンジョンはモンスターも弱く駆け出し装備で何とかなるらしい。しかし、中級者となると討伐効率を考え大抵のハンター達は武器にモンスターの属性に合った付与をして効率を上げるのだという。
「いいじゃないか! 」
トキジロウは早速、アタッチメントに属性を注入していく。
メイサの指示で各属性、特に売れ筋の火属性を多めに50個ほど注入した。
メイサが注入されたアタッチメントをカウンターのチュウに預ける。
「トキジロウ 今回の報酬よ 銀貨五十枚 硬貨を入れる財布ある? 」
「小銭は、持たない主義だ こっちは札が無いのか? 」
「札? ああ! あの、紙のお金の事ね 無いわ こっちは硬貨だけよ」
メイサは使っていない小銭入れに銀貨五十枚入れてトキジロウに渡した。
受け取ったトキジロウが一言言った。
「メイサ…… ボロい儲けだな」
「ちょっと!? そんな言い方しないでよ 魔法やスキル教えて、うちのダンジョンで売ってあげるんだから 暫くは、ここで寝かせてあげるんだし」
授業料、焼肉弁当銅貨三枚…… そして寝床。
面倒になっている間は仕方ない…… そう考えるトキジロウだった。
「しかし、驚くほど早い計算力ね びっくりしたわ… 」
「当然だ 金の、やり取りは素早く正確に 俺に誤魔化しは通用しない」
「はいはい それより、いいこと思いついたのよ 乗る? 」
メイサが、屈託のない笑みでトキジロウに話を持ちかける。
話の内容は、トキジロウが特殊スキル【加工】を覚え材料となるモンスターからドロップする魔石を買い取りアタッチメントに加工することだった。
要は、アタッチメントを自作してしまおうというのだ。
「どう? 一枚、銀貨一枚と銅貨五十枚にアップよ! 悪い話じゃないわよ」
労力に、見合うのか考えるトキジロウ。
魔石から、アタッチメントにする加工の工程を知らずに後で泣きを見たくないからだ。
「スキル持ちは、あたしが探す 魔石の買い取りも、うちでするわ」
「わかった 一度、魔石からアタッチメントにする工程を見てからだ」
「そうね それでいいわ フフッ 儲けるわよ! トキジロウ!! 」
「メイサ お前…… 金が好きなんだな」
「えっ!? そう見える? フフッ 間違ってはいないわね」
トキジロウは手に入れた金で煙草を買いに行くことにした。
メイサは場所を教えると一緒に向う。
場所は弁当屋の先にある雑貨屋。
「そろそろ晩飯だよな 俺に奢らせてくれ」
「ご馳走様 ついでにチュウ達の分もよろしくね」
「…… まぁいいか アライ チュウは殴っちまったしな」
目的地の雑貨屋に着いた。
「メイサ 煙草一本くれ」
「何でよ!? 煙草を買いにきたのにタカるの? 」
「違う! 味が解んないだろうが こっちの煙草の」
「そういう事ね はい、一本貸しとくわ」
煙草をもらったトキジロウ。
生活魔法【ファイヤー】で火をつけた。
ボワッ
「ちょ…… 半分焦げやがった… 」
「フフッ 火力調整が甘いわね イメージよ イメージ」
メイサが煙草を咥えて【ファイヤー】を唱えた。
その火は細くて短く、ライターと同じくらいの火力を出した。
「イメージよ フフッ」
(糞アマァ… 今に見てろよ! )
トキジロウは、黙って店内に入って行く。
「いらっしゃ…… い 」
店内のカウンターに短パン、ティーシャツ、エプロンをしている亜人。
姿は女の人間、頭髪部から尖った耳が二つ。
尻尾が生えているタイプの猫亜人だった。
トキジロウは【鑑定】を使った。
(この猫… 面白そうなスキル持ってやがるな…… )
猫亜人は、はじめて見るトキジロウに危険を感じたのかソワソワしている。
「どうも~ 煙草頂戴 ジーニャ」
「メイサ! いらっしゃい」
猫亜人、知り合いのメイサが来店して安堵の表情を浮かべた。
「おい メイサと同じ煙草くれ」
「あっ 気に入った? ストライクバッターアウトって言うのよ」
「はぁ!? こっちに野球あんのかよ? 」
「やきゅう!? 知らないけど… ただの煙草の銘柄よ? 」
「…… もう、どうでもいいわ… 」
トキジロウとメイサの会話を黙って聞く猫亜人のジーニャ。
メイサに質問する。
「メイサ 知り合いなの? 」
「あっ 紹介するわ トキジロウ 訳ありで暫く、うちにいるから ここの娘 ジーニャよ よろしくね」
「なんとかニャ とかって、しゃべらないのか? 」
「何それ!? そんな変なしゃべり方する人いないわよ」
「あっそ… 」
少しだけ期待していたトキジロウだった。
とりあえず、店内の陳列棚に姿を隠すトキジロウ。
「!? 」
トキジロウの、挙動不審な行動に困惑するメイサ。
「おい 感知できるか? 」
「!? 貴方、【鑑定】持ちなの!? 」
猫亜人のジーニャが驚いた声でトキジロウに返事する。
「いいから、感知してみろ」
「… マナー違反よトキジロウ」
「マナー違反!? 何だそりゃ? 」
この世界では、勝手に他人のスキルを覗いたり口外してはならなかった。
メイサに説明を受けるトキジロウ。
刑罰は無い。ただ、マナーが悪いと悪評判が立つという。
「わかった!? 勝手に【鑑定】使っても口外しちゃ駄目わ! 」
「ああ 気を付けるよ… 」
「いや… 勝手に【鑑定】しちゃダメでしょ…… 」
トキジロウは、ジーニャが所有する特殊スキル【熱源感知】を発動した。
離れた陳列棚の影からメイサとジーニャの存在を確認。
トキジロウには、カウンター付近でサーモグラフィックに写るような二つの姿を捉えていた。
スキル取得を確認できたトキジロウは帰る事にした。
「たばこ いくら? 」
「銅貨二枚です」
トキジロウは銀貨一枚を置いた。
「取っときな… 釣りはいらねえぜ」
メイサとジーニャは臭い台詞に青褪める……
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