5話 ダンジョン地下街


 飯時だからなのか、バラック小屋の前から歩く人の姿が少なくなっていた。

 通りが見える位置から、メイサに買ってもらった弁当を食べるトキジロウ。


 メイサが、店番をするアライグマのチュウに弁当を渡している。

 チュウは、焼肉弁当とワカメ弁当を受け取る。


 バラック小屋にメイサが戻ってきた。


 「弁当~ 弁当~ 腹減ったね って、もう食べていたか」


 メイサは椅子に座り弁当を食べだした。

 トキジロウは気になっていた事をメイサに質問する。


 「メイサ アライ チュウは、何の店番をしてんだ? 」

 「あれ? 言ってなかったっけ? ダンジョン入場の受付」

 「ダンジョンの受付!? 何だそりゃ? 」


 メイサは弁当を食べながら話を続けた。


 「うん… ちょっと硬いな、今日の肉 って、ダンジョンを管理しているから入場料を取ってるだけなんだけど トキジロウの居た世界じゃ金を取らないの? 」


 「はあ!? ダンジョンなんてある訳ねえだろ 魔法もスキルも存在しねえ」

 「ふーん そうなんだ じゃあ、ハンターも存在してないか」

 「ハンター? ハンターはいるぜ」

 「モンスターも居ない世界で、ハンターはどうやって食ってるの? 」


 話が噛み合ってない。

 トキジロウとメイサの言う"ハンター"は別物だった。


 「ハンターってのは、山とかにいるシカとかクマを撃って、売ったり食ったりしている奴らのことだろ? 」

 「あぁ… やっぱそっちのハンターね こっちで言うハンターってのは、ダンジョンや町の外に生息するモンスターを退治して生計を立てている人達のことをいうの」

 「モンスターを倒すと金になるのか? 」

 「そうよ でも、魔法やスキルを持たない人はハンターにはなれないわ」

 「何故だ? 」

 「対抗する手段を持たないから」


 スキルが発生しない者は、安全な町の中で仕事を探し生活するだろう。

 スキルが発生した大半の者は、人類の憧れであるハンターを目指す。


 しかし、スキルが発生した全ての者がハンターになるとは限らなかった。

 モンスターと対峙するリスクは計り知れない。

 家族がいる者は安全な仕事を探すだろう。

 

 「とりあえず、見に行きましょう」

 「何を!? 」

 「言ってたんでしょ? 魔法とスキルを与えるって」

 「ああ、言ってたが… 信用するのか? 」

 「んー って言うか 別に、嘘ついてる様にも見えないしね 着いて来て」


 トキジロウは、メイサの後に着いて行く。

 少し歩くと路地に入った。

 ダンジョン入り口の看板がある。

 『入場料 銀貨二枚 入り口転送札 ハーフト銅貨一枚』


 (あれ? なんで この世界の字が読めてるんだ?… )

 

 「よっ メイサ、調子はどうだ? 」

 

 男はカウンターの椅子に座り、黒いサングラスをかけ新聞のような物を手に取り愛想良く話かけてきた。

 齢五十過ぎた感じの人間だった。

 

 「ハルマン こんにちわ まあまあかな なんとかやってるよ」

 

 メイサが愛想笑いして答えた。


 「ん!? 新入りかい? 」


 トキジロウに気がついたハルマン。


 「あ… 少し訳ありで しばらくはウチにいる予定」

 「ふーん… 訳ありか 何でもかんでも背負い込むなよ メイサ」

 「わかってるよ じゃあね ハルマン」


 メイサは、ダンジョンの先にある地下に行く階段を降りはじめた。

 トキジロウは後に続く。


 階段の入り口には『ダンジョン地下街』の吊り看板。

 

 ダンジョン地下街は、密集したダンジョンとダンジョンの間に出来た歪を利用した地下空間だった。


 地下街では、多くの人々が商いをしていた。

 世間一般が言うところの"ブラックマーケット" "闇市"と呼ばれていた。


 店舗がある訳ではない。

 通路の窪みを利用して、箱や布の上に商品を置き商売している。

 

 少し開けた区域に辿り着いた。

 飲食店が数件、鉄板焼き、立ち飲み、ホットドックなど。

 

 立ち飲み屋の横に、テーブルと椅子が設置されている。

 頭から、スッポリと外套を被る人物。独りで酒を飲んでいる様子だった。

 気がついたメイサが声をかける。


 「オババ! 」

 「!? 」


 メイサが歩み寄る。


 「メイサ!? 珍しいね こんなところに来るなんて どうしたんだい? 」


 メイサとオババは知り合いのようだ。

 

 「ちょっと、オババに用事があってね 鑑定頼める? 」

 「かまわないよ 物は、なんだい? 」

 「物は…… そこのトキジロウを頼みたいの ちょっと訳ありでね」

 「…… 」


 黙ってトキジロウを鑑定するオババ。


 「メイサ… 変わった人を連れてきたね こんな事、はじめてだよ」

 「何が解ったの? 」

 「見た事がない 魔法とスキルさ… 」

 「何て書いてあるの!? オババ! 」



 <<パーフェクトスペル>> すべての魔法が取得可能

 <<パーフェクトスキル>> すべてのスキルが取得可能


 「パーフェクトスペル すべの魔法が取得可能… パーフェクトスキル すべてのスキルが取得可能 恐らく、特殊スキルも取得可能だろうね… 」


 「ちょっと…… 冗談でしょ!? 何か、直ぐに覚えられる魔法とかスキルないかな… 何かあったっけ? オババ!? 」

 「落ち着きなよ メイサ あんたらしくもない あたしの【鑑定】スキルを受けたから取得している可能性はあるね トキジロウさんといったね メイサを見て【鑑定】してみなよ スキルだからイメージはいらないよ」


 黙って話を聞いていたトキジロウ。

 話の流れで、自分が持っている魔法とスキルを覗かれたんだと感じた。

 トキジロウはメイサを見て【鑑定】してみた。


 「な… なんか見えるぞ メイサ… 二十四歳なのか? 」

 「ぎゃっ!? そんなの口に出すな 他に何が見えたの!? 」 

 「他には… 職業:精霊魔法士 風の小太刀 火の宝玉 地の恩恵… 全部読むのか? 」

 「いえ… もういいわ ありがとうオババ また来るからね」

 「ああ いつでもおいで それと孫を頼む」

 「うん マグロース頑張っているわ 助かってる じゃあね」


 トキジロウとメイサはバラック小屋へ戻った。

 カウンターで、店番をしているチュウの横にもう一人座っていた。

 亜人だった。魚の亜人、頭と体はマグロで顔が人間。

 手足が付いて水掻きもある。

 背中に弓を背負っていた。


 「「マスター おかえり」」

 「ただいま 今ね オババのところに行ってたの マグロース」

 「どうして? 」


 はじめて聞いた、魚人マグロースの声にトキジロウは驚いた。


 (人間と変わらないんだな こいつら…… )

 

 「鑑定頼んだのよ それより紹介するわ トキジロウよ そして、マグロース さっきいたオババの孫なの みんな仲良くしてね」

 「どうも… よろしく」


 マグロースがトキジロウに挨拶をする。

 トキジロウが引き攣りながら返事をした。


 「あ… ああ… よろしく」


 (なに!? やっぱ魚人 気持ち悪いわあ… ってか、ちょっと怖い… 鑑定したら職業:シャドーレンジャーってなんなの!? )

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