4話 はじめての生活魔法【ライト】

 バラック小屋でトキジロウの話を聞くメイサ。

 その顔は、信じられないといった不信感を漂わせながらも最後まで聞く。


 「あぁ… つまり、謎の声主とやらが言うには魔素を浄化していけば いずれ力を取り戻し あんた… なんだっけ? 」


 「トキジロウ… オサナイ トキジロウだ」


 「そうだった トキジロウを元の世界に帰してもらえるってことか」


 「普通は信じねえよな… こんな話 俺でも信じねえよ」


 「まあ 待ちなって その、声の主とやらはモンスターに対抗するために、魔法とスキルを与えると言ったんでしょ? 」


 「言ってたな 笑っちまうよ 魔法とスキルって… 馬鹿にしやがって」


 「ちょっと、やってみなよ 人差し指を立てて 【ライト】って言ってみな 魔法が使えるなら指の先に、これくらいの光の玉が出るからさ」


 メイサは、ピンポン玉くらいの大きさを親指と人差し指で輪を作る。


 「お前… 本気で言ってるのか? 人間が魔法なんか使える訳ねえだろ」


 トキジロウは呆れた様子で答えた。


 トキジロウの隣で、メイサは人差し指を立てて呪文を唱えた。


 【ライト】


 呪文が終わるとメイサの指先にピンポン玉くらいの光の玉が具現化した。

 その玉は、内部から黄色を帯びた発光を放ち続ける。

 トキジロウが驚く。


 「おいおい…… 本当かよ 手品じゃねえのか? 」


 トキジロウは、直ぐ様メイサの手の裏を見たり仕掛けを捜し始めた。


 「落ち着きなよ この世界の住人なら誰でも出来るよ これは【ライト】といって生活魔法の一つ 他にも、水を出す【ウォーター】火を出す【ファイヤー】風を起す【ウィンド】 この四つが生活魔法さ」


 【生活魔法】


水・ウォーター

光・ライト

火・ファイヤー

風・ウィンド


 トキジロウは、半信半疑で自分の指を立て呪文を唱えた。


 【ライト】


 ……


 何も起こらない。


 「駄目だな 別の世界の人間には出来ねえのさ 出来る訳がねえ」


 諦め顔のトキジロウに、メイサがアドバイスをした。


 「魔法は唱えるだけじゃ無理よ イメージ! これは絶対必要条件なのよ」


 「イメージ…… 」


 「あたしが見せた光の玉を、イメージしながら呪文を唱えて」


 「光の玉… イメージ…… 」


 トキジロウが呪文を唱える。


 【ライト】


 トキジロウの指先に光の玉が具現化し光を放つ。


 「おっ… おっ! おおおっ!! 出た!! 玉が出た!! 」


 トキジロウは興奮しながら、光の玉とメイサの顔を交互に見る。


 メイサは、初めて笑顔を見せた。


 「なあ! もっと魔法を教えてくれよ! お前、詳しいんだろ? 」


 「お前? あたしはメイサって言ったでしょ」


 「ああ 悪りい メイサ なあ! 頼むよ 教えてくれ」


 トキジロウは、光の玉を見ながら屈託なくメイサに魔法の教えを乞う。


 「それなら、先ずはチュウにやった事を謝ってからじゃない? 」


 「ん!? アライ チュウか ああ、解った 謝ってくる」


 トキジロウは、光の玉を出しながら迎えにあるカウンターで店番をするアライグマのチュウの元へ歩いて行く。


 トキジロウに気がついたチュウが慌てて大声を出す。


 「マっ! マスター!! 来たよ こっちに来た!? 」


 席を立ち、逃げ出そうとするチュウ。

 トキジロウは、それどころじゃなかった。

 自分が出した魔法【ライト】に感動して光の玉から目が放せなかった。


 「おい アライ チュウ さっきは悪かったな 勘弁してくれ」


 トキジロウは、光の玉を見ながら謝った。

 

 謝られたチュウは怯えているがメイサが優しい顔でこちらを見ている。


 「わかった… 今回は、いいよ 許すよ」


 わだかまりはある。

 だが、マスターのメイサが許してやれと言わん顔をしていた。

 勘違いで殴られたチュウは、今回の件は忘れる事にした。


 トキジロウは、光の玉を見ながらバラック小屋に戻り椅子に腰掛けた。


 「なあ メイサ 他に魔法はあるんだろ? 教えてくれ」


 トキジロウは、はじめて知った魔法に夢中だった。

 メイサと話していても自分の出した光の玉を見続けていた。


 「わかった… その前に飯にしよう 近くの弁当屋に行こうか」

 「おお! 弁当屋あるのか 行こう ところで、これはどうやって消したらいいんだ? まさか、ずっと光ってるのか? 」


 「意識を開放して そうすれば自然と消えてなくなる それか【キャンセル】を唱えれば全ての魔法が停止するよ」


 「意識を開放…… ああ、駄目だ 難しいな」


 トキジロウは【キャンセル】を唱える。


 (たぶん、魔法を使った時みたくイメージすれば… )


 【キャンセル】


 トキジロウは、光の玉が収束していくイメージをしながら呪文を唱えた。

 光の玉が徐々に小さくなり消滅した。


 「おっ こんな感じか なるほどな… 」


 トキジロウとメイサは町にある弁当屋に向かった。

 

 町の中心に向うに連れ、亜人の種類も多くなってきた。

 小人のドワーフ。やたらに髭を蓄えどれも同じに見える。

 肌の色が真っ白で耳が長いエルフ。何処か気取っているように感じた。


 ただの第一印象に過ぎない。


 町の広い道では馬車が行き交う。

 だが、馬車を引くのは馬だけではなかった。

 大きなトカゲのような二足歩行する速さのブリッシュ。

 鹿のような姿をしている馬力の四足獣マクラーゲン。


 今まで、見た事がない人種と動物が入り乱れる異世界。

 元居た世界のしがらみを、この時だけは忘れるトキジロウだった。


 弁当屋に着くとメイサが注文する。


 「焼肉弁当、三つ ワカメ弁当、一つ ね」

 「焼肉3、ワカメ1 入ります! 」


 店内の奥から焼き肉を調理する匂いが漂ってきた。

 トキジロウは朝から何も食べていなかった。

 腹が減る事も忘れるほど、様々なアクシデントに見回れた一日。

 

 「焼肉3、ワカメ1 上がりました! 」

 

 メイサが財布から金を出そうとする。

 トキジロウは、ズボンの後ろポケットから長財布を取り出し壱万円札をビシッと差し出した。


 諭吉がトキジロウに語りかける

 『イカしてるぜ 時次郎』

 と、言われた様に感じたトキジロウだった。


 「面倒見てもらっているんだ 俺に払わせろ」

 「えっ!?…… 何、この紙… 」

 「んっ!? 紙? んー…… んーん やっぱ使えないのか?… 」

 「フフッ 使えないね 貸しとくよ 後で利息付けて返してね」


 トキジロウは無一文。

 女に、弁当を買ってもらう屈辱を味わった。

 魔法も大事だが、もっと大事な事に気がついた瞬間でもあった。


 トキジロウの美学。

 それは、女を食い物にはしない。

 メイサに言われた『貸しとくよ』言葉に胸を引き裂かれる思いがした。


 「焼肉3、ワカメ1 合計、銅貨十一枚になります」


 焼肉弁当は銅貨三枚、ワカメ弁当銅貨二枚。


 仕事を探さないと……

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