3話 亜人


 突然の衝撃で気を失ったトキジロウ。


 魔素、モンスター、ダンジョン、魔法、スキル……

 様々な単語が頭の中を駆け巡る。


 日本に帰るには、魔素を減らして謎の声主の力を取り戻させる事。

 後は頼んだ? 少し寝るだと!? いい加減にしろ!


 「って、寝てる場合かあああ!! 」


 トキジロウは飛び起きた。


 「何処だここは…… 」


 飛び起きた場所は一軒のバラック小屋の中だった。

 ベッドの脇にはテーブルや椅子が置かれ食器や飲み物の空き瓶が転がり生活感が漂っていた。

 気絶した場所とは一変したのが確認できる。

 

 トキジロウは、バラック小屋の窓から表の様子を見て見ると変わった格好をした人々が往来していた。


 人々が…… 人 々…… !?


 「な… 何だ ありゃ!? …… 」


 トキジロウが見たのは、人間以外の生き物。

 肌の色は緑、顔の部分だけが人、体が魚、手足が付いている。

 手足には水掻きが付いて二足歩行で道の反対側をペタペタと歩いていた。


 「な… 何!? 気…… 気持ち悪りい」


 他にも、長い体毛で覆われた顔だけが犬、体が人間の生き物。

 人間のように見えるが、尻尾を生やし頭髪部から耳を生やした猫。

 人外達が闊歩する。


 「とんでもねえ…… とんでもねえ所に来ちまった」


 初めて見る亜人に驚愕するトキジロウ。

 同時に、謎の声主の言葉が気になった。


 『普通の人間では太刀打ちは出来ないだろう』


 (あいつらが攻めてきたら俺は…… 殺されるのか? どうする)


 バラック小屋の窓から、表の様子を伺うトキジロウに道を挟んだ辺りで掃除をしている生物が気付いた。その姿は……

 アライグマだった。しかも、二足歩行。

 縞のはいった姿はアライグマそのもので、ジーンズ生地のオーバーオールを着衣していた。アライグマは竹箒を握りバラック小屋に向って来る。


 トキジロウは、バラック小屋の入り口で身を潜める。


 アライグマは小屋に入りキョロキョロしている。


 (今だ! )


 トキジロウは、アライグマの顔面に渾身の一撃を食らわせた。


 「ウギャッ!! 」


 アライグマは悲鳴をあげて、その場に倒れこんだ。


 (いける!! )


 トキジロウは、アライグマに圧し掛かると近くにあった工具で滅多打ちにする。


 「てめえ!! 俺を殺しに来たのか!? 殺られてたまるか! 」


 「や… やめて そんな… そんな事しないよ グッ!? 痛い… 」


 「俺を油断させるつもりだろうが!! 殺られる前に殺ってやる!! 」


 トキジロウの滅多打ちは続いた。

 アライグマの呼吸は小さくなり抵抗する力が弱まり動かなくなる。

 トキジロウは小屋にあったロープを握るとアライグマの手足を縛ろうとした時だった。アライグマの後ろポケットに短剣が忍ばせてあるのに気付いた。


 「んっ!? 」


 トキジロウは、アライグマの短剣を握り身構える。


 「う… やめて 殺さないで… 」


 アライグマは、自分が持っていた短剣を取られ命の危険を感じたのだ。

 命乞いをする。

 

 トキジロウは考えた。

 殺すのは簡単だが、こいつに色々聞いて日本に帰る方法を探りたい。

 例えモンスターであってもアライグマなら何とかなる。


 その時だった。


 バラック小屋の入り口にタンクトップを着た 若い… そうでもない女が立ち竦んでいた。人間なのか!? 尻尾や耳を確認する。生えてない。人間だ。


 「チュウ!! 」

 「えっ!? チュウ? 」


 女が大声でチュウと鳴く。

 

 人間に見えるが… ネズミのモンスターなのか!?

 トキジロウは、女に短剣を向け身構えた。

 

 女は、短剣を向けられても動じない。

 アライグマから視線を外さなかった。


 「チュウ! しっかりしろ! チュウ! 聞こえるか!? 」


 女は、必死にアライグマに話しかける。


 「マ… スター…… 助けて こいつ… ヤバいよ…… 」


 アライグマは、縛られ転がされている状態で女を"マスター"と呼んだ。

 そして、転がっているアライグマが"チュウ"という名前だと分かった。


 女はアライグマのロープを解きはじめる。


 「待て!! 勝手に解くんじゃねえ! こいつは俺を殺しに来たんだ! 」


 トキジロウは、女に短剣を向けながら制止する。


 「何を言ってるのさ! 何であんたを殺さなきゃいけない訳? だいたいにして、町の外で気絶していたあんたを此処まで運んだのは、あたしと転がされているチュウなんだけど? 」


 「なんだと!? お前と、このアライグマが俺を助けてくれたのか!? 」

 

 「そうだよ… ったく、助けてやるんじゃなかったよ 待ってろチュウ 今解いてやるからな」

 

 女はアライグマ チュウのロープを解くと腰に巻いたポーチから瓶に入った液体をチュウに飲ませた。


 「ゴクッ… ゴクッ ありがとうマスター 殺されるかと思った… 」


 液体を飲んだチュウの体から、薄い緑色の光がチュウの体を包みこんだ。

 チュウの頭や顔の傷が治っていくのが判る。

 ブルブルと体を震わせ女にしがみつくチュウ。


 「チュウ カウンターで店番してて 頼んだよ」

 「うん わかったよマスター」


 アライグマ チュウは道を挟んだカウンターに座り店番をはじめた。


 「あんた 怪我も何もしてないんだろ? だったら出ていってくれない? あんたみたいな危ないの近くに置いておけないよ」


 女はトキジロウに退去命令を出す。


 「わかった すまなかったな 助けてくれたのに… 出て行く前に少しだけ質問させてもらっていいか? 」


 「何? 」


 「アライチュウはモンスターじゃないのか? 」


 「何を言ってるの? ただの亜人じゃないか 大丈夫? 」


 女は、トキジロウの質問に疑問を感じながらも普通に当たり前の返答をした。


 「だいたい、モンスターが町の中でうろうろしてる訳ないでしょうに」


 「モンスターは町の中にはいない… か 次ぎの質問いいか? 」


 「…… どうぞ」


 「町の中で歩いている魚みたいな生き物や 尻尾が生えているやつらも亜人というやつなのか? 」


 「あんた… さっきから本気で言ってるの? 」


 「本気も本気 俺は大マジだよ あんな生き物見た事ねえよ… 」


 「…… ちょっと詳しく話してみて あたしの名前はメイサ あんたの名前は? 」


 「長内 時次郎だ」


 頭が混乱しているトキジロウにメイサと名乗る女が話を聞くという。

 トキジロウは、ここまでの経緯を話し始めた。

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