王都 パルキア
第31話 奇跡と過ち
その昔、この世界には種族間の争いなどなかった。
人間、獣人、エルフ、知能を持った三つの種族は互いの存在を認知しながらも、積極的に関わる事はなかった。
それはなぜか?
価値観が違う。この一点のみである。
各種族の先人達は、緩やかな交流を行いつつも、明確な線引きを引く事で平和な時代を築き上げてきた。
互いを理解しようとしないのもまた、一つの選択肢なのであった。
しかし、今より約二百年前、この世界に危機が訪れる。それをこの世界の者は『厄災』と呼んでいる。
現アルカディア王国の南東、ヴェスティアノス帝国の東に位置する膨大な荒野。ひたすら、地平線が続くこの場所にそれは現れた。
地平線に入った一本の線。それは空間を割き、禍々しいゲートを生み出した。そこから現れた異形の存在。その軍勢は、この世界の人間、獣人、エルフを等しく攻撃した。
その圧倒的な戦力を前に、先人達は手を結んだ。共通の敵を前に結成された三国同盟。盟主となったのは当時のアルカディア王国の王、『ゼノビアス』であった。この三国同盟はその後の、各国の関係から『奇跡の共闘』と呼ぶ者もいる。
長き異形の者達との戦争は、二人の英雄によって幕を閉じる。
大賢者アレイスターと剣聖アストラム。
今でも語り継がれる二人の活躍により、ゲートは閉じられ、この世界は異形の軍勢から救われたのだった。
英雄譚として語られるこの物語。価値観の異なる三種族の共闘という美談になってもおかしくはない。しかし、現実は違った。
人間、獣人、エルフはこの戦いで互いを知りすぎてしまった。そこから生まれたのは【好意】ではなく、【敵意】だった。
人間は獣人の獰猛さ、エルフの高い魔法能力を恐れた。
獣人はエルフの傲慢さ、人間の狡猾さを嫌った。
エルフは予想よりも力をつけていた人間の魔法能力と技術力、獣人の身体能力に怯えた。
それぞれの種族は、各地域に砦を建築した。他種族に対する戦力として軍隊を構成した。
誰にも止められなかった。
最初の戦争は人間と獣人の間で起こった。アルカディア王国は獣人が人間を食べたと主張し、当時まだ連合国家だったヴェスティアノスは人間が獣人を性的対象として凌辱したと主張した。それぞれの民にとって、真偽は些末な問題でしかなかった。
その次の戦争は人間とエルフの間で起こった。精霊と心を通わせるエルフは、幾つかの聖地を定めているが、その重要性を知らない人間が開拓地として、とある一帯の領有権を主張。その地にはエルフが住んでいなかったが、アルヴヘイムは当該地は神聖な場所として一歩も譲らなかった。
その次の戦争はエルフと獣人の間で起こった。互いの国境線の主張が食い違い、話し合いが行われた。しかし、獣人を醜い獣と揶揄するエルフと、力で屈服させようとする獣人では話にならなかった。
現在に至るまで、争いを終わらせようと交流を図る機会は幾度となく訪れた。しかし、人間の性的欲求、獣人の食欲、エルフの短命種族に対する傲慢さはそれを阻み続けた。
二百年前に訪れた厄災。
人間、獣人、エルフには友好と敵意という二つの選択肢があり、この世界は後者を選択したのであった……。
共闘という奇跡と、戦争の始まりという過ち。歴史は紡がれる。何が正解か探りながら。
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