第5話 パレード
大通りに着くとパレードを見ようとする人の壁が沿道に沿って出来上がっていた。
「見えない……」
彩愛は懸命に背伸びをする。だが、5歳ほどの子供が背伸びをしたところで壁の向こうの景色など到底見えるはずもない。
私はその場にしゃがみ込み彩愛へ肩に乗るよう合図した。
彩愛の両足が私の両肩にかかる。肩車をする形で私は立ち上がった。
肩車をしたのはいつぶりだろうか。彩愛の重みが肩にかかることで娘の成長を改めて実感させられる。ちょっと前まではあんなに軽かったのに……
「どう?見えるかい?」
「ばっちり!」
彩愛は人差し指と親指で小さな輪を作る。
「おとーさん、あっち!見て、見て!」
彩愛の指さす方を見ると、空軍の航空隊が編隊を組みながら私たちの上空を飛び去っていった。そして、航空隊が飛んできた方向からはパレードの一団が隊列を組んでこちらへ向かって来ているのが見えた。
白を基調とした衣装に身を包み、バトン隊を先頭にして管楽器隊、打楽器隊が横八列に並び軽快な音楽を鳴らしながら大通りをゆっくりと進む。沿道からは歓声が上がった。
「おとーさん、すごいね」
彩愛は初めて見るパレードに圧倒されているようだった。
「わたしも大きくなったら、あの人たちみたいになりたい……」
彩愛の目には〝パレード隊〟ただ、それだけしか映っていないようであった。
音楽隊に続いて騎馬隊が馬を巧みに操りながら行進する。そして、その後ろには黒塗りの上品なオープンカーに乗った中年の夫妻が沿道の観衆に向かって手を振りながら進んでいる。歓声は一際大きいものとなった。
「あの人たちは誰?」
彩愛がふと訊いてくる。
「あの人は大統領といって、この国で一番偉い人さ」
「一番?一番は、おとーさんじゃないの?」
私は思わず吹き出しそうになった。
そんな風に思われていたとは……。5歳に満たない子供の世界観ではそんなものなのだろう。
「お父さんが一番偉い人だったら彩愛にもっといい暮らしをさせてあげられるよ。好きな食べ物や欲しいおもちゃ、何だって手に入れられる」
「ふぅん、でもわたしは今のおとーさんでもとっても偉いと思うよ」
彩愛は私の目を見る。
「それに、わたしは〝おとーさんと一緒にいられる〟それだけで嬉しい気持ちがいっぱいだよ」
彩愛は白い歯を見せニッと笑う。
「ありがとう。お父さんも彩愛と一緒に居られてとっても幸せだよ」
私は目が潤みそうになるのを必死に堪えながら笑った。この子は私の生涯をかけて必ず幸せにしなければならない。そう、改めて誓った。
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