嗤う屍

これは、まだ土葬が中心の時代の話である。


ある、二人の墓掘り男がいた。


彼らは、裕福な者が死ぬと、決まって夜中に墓を掘り起こし、そこに一緒に埋葬されている金目の物を持ち帰るのが仕事だった。


それなので、昼間は前夜に盗んだ品々を山分けして売り、その金を使って二人で飲み歩き、夜更けになれば、再び仕事に取り組むというのが彼らの日課だった。


現代のように、発達した医療もまともな医者もないこの時代、人々は常に死と隣合わせの生活送っていた。そのため、男たちの仕事が尽きることは無かった。


ある日、街で1番の金持ちで、持っている財産と同じくらいに嫌われている男が死んだ。


その男は高利貸屋で、とても強欲で無情なことが人々から嫌われる所以であった。


死因についてはあまりよく分かっておらず、人々の間では、恨みを持っていた誰かに殺されたのか?や、あまりの孤独に耐えかねて自殺したのだろう、といった憶測が飛び交った。


二人にとって、そんな噂などはどうでもよかった。ただ、金持ちが死んだということは、また自分たちの懐が潤うのだ。二人は顔を見合わせるとにんまりとした。


その夜、男たちはいつも通り、目出し帽を被って道具を持った。そして、夜が更けるのを待ってから高利貸屋が埋められたという共同墓地へ向かった。


“今夜はいくら手に入れられるだろう。“


そんなことを考えると、笑いが止まらなかった。


さて、墓地につくと男は、警戒しながら辺りを伺った。そして、誰もいないことを確認すると協力して墓を掘り始める。


ギャアギャアギャア


しん、と静まり返った闇の中、カラスの鳴き声が聞こえる。


黙々と土を掘ること数時間。


カチリとスコップの先が何か硬いものに当たった。


“もう少しで億万長者だ“


二人で顔を見合せ、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、さらに土を掘り、とうとう棺桶までたどり着いた。


ノミを取り出すと、棺の蓋を力いっぱいこじ開ける。


ギギィ……バキバキ……


あちこちに木片が飛び散り、木製の棺の蓋を開けることに成功した二人は、鼻息荒く中を見た。


「ちくしょう!!なんなんだこれはっ!!!」


男のうち1人が叫んだ。


そこには、今までに二人が見た事のない屍が横たわっていた。


青白く生気を失った頬はげっそりとコケており、血走った目はカッと見開かれていた。そして口ひげがうっすらと生えている口元には、なんとも薄気味の悪い笑みが浮かんでいたのだ。


突如、屍はクツクツと笑いだした。


「お前らのようなこそ泥に私の財産はやらない」


地の底から響いてくるような低い声がどこからともなく聞こえてきた。


あまりの恐ろしさと気持ち悪さに、二人の男はぶるぶる震え、そのまましばらく硬直してしまった。


このまま逃げ出したい気持ちと、上手くやり遂げて金持ちになることへの憧れとがせめぎ合っていた。


どのくらい時間が経ったのだろうか。


東の空がうっすらと明るくなってきていた。


“まずい。人が来る“


夜が明けてきたことで恐怖が薄れてきた男たちは、大慌てで棺から取り出せる金品を取り出すと、道具を担いで走り去った。


棺は蓋もされず、土にも埋められず、そのままになっていたが、その日の昼間、役人によってその現場は発見され、棺は元の場所に元通り収められたのだった。


ちなみに、役人が棺の中を見た時には、屍は普通の屍であったそうだ。


~終~


とある酒場にて


村人A

「俺らの街にいた極悪の墓掘り野郎二人だが、死んだらしい。」

村人B

「なんでも、共同墓地であの悪徳金貸し屋の墓を掘ったからだとかなんとかいう話だなぁ。」

村人C

「あいつら、死に様も無様だったらしいぞ。なんかおっかねぇもんでも見たように目を見開いて、自分の財産をしっかと胸に抱えていたそうだ。」

村人A&B

「まぁ、長年の罰があたったんだろうよ」


〜完〜



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