エイプリルフールの話

 こんにちは、顔がいい女です。

 今日は4月1日、エイプリルフールです。今年も彼女に騙されるのかな。

 騙されないように気をつけても、騙されるときは騙される。そう考えることにして、騙されないようにするより騙されたあとどう反応するのかに気をつけよう。と、そんな覚悟をしていたわけですが。今年はなかなか、いつものようなとんでもない嘘が出てきません。

 まさか、エイプリルフールのこと忘れてるなんてわけはないよね。


 そして昼。ファミレスでお昼ご飯を食べている時。唐突に、彼女が切り出しました。

「今日ってエイプリルフールだよね。」

「……うん。」

「……また騙されると思ってる?ダイジョーブ、これから話すのはそういうんじゃない。……エイプリルフールって、どこで始まったかはっきり分かってないらしいんだよね。ただ、その日は嘘をついて楽しむ風習がある。でもさ、嘘をつき放題だとさすがにダメじゃん。だから、いくつかルールがある。」

「嘘をついていいのは午前中だけで、午後はそのネタばらしってやつ?」

「それ。イギリスが発祥らしいんだよね。でもこれ、本当はイギリスだけのルールだったとか。」

「……じゃあ、日本は違うわけ?」

「うーん、どうなんだろうね。日本でも有名なルールだし、事実上通じるって認識でいいのかなあ。相手も自分も通じるって思ってたら通じるでいいと思うけど。どっちにしろ、強制じゃないしね。」

「このルールがアリだったら午後の嘘って無効だよね。」

「そうなんだよ。それじゃあここで一つ。」

 彼女はいきなり私の耳元に囁きました。

「私はあなたを好きになった理由は顔じゃない。」

 壁に掛かっている秒針のない時計は、ちょうど12時きっかりを指していました。

「……どっちなの?」

「ん?なんのこと?」

 あの瞬間、午前だったのか午後だったのか。彼女はあのルールを通じるという前提で言ったのか、そうでないのか。一体なんの意図を持って言ったのか。

 私は異常に顔がいい。言い訳ができないくらい、顔がいい。だから、ほとんどの人間は私の顔しか見ていません。彼女は数少ない、私の内面を見てくれる人間。だけど、最初に私を見たときから私の内面だけを見ていたなんて、そんなことあるんでしょうか。

 とりあえず、真っ赤になった彼女の耳と私の顔だけは、嘘をついてくれませんでした。

 以上、エイプリルフールの話でした。

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