彼女が誘拐された話
おはようございます、顔がいい女です。
これは、今朝LINEを開いたら届いていた彼女からのメッセージです。
誘拐されちゃった(笑)まじで
「
叫んじゃった。
誘拐されたとか、道理でまだ帰ってこないワケですよね。朝帰りするような子じゃないのに。
とにかく、警察に連絡ですね。
「もしもし、
「あら、美影ちゃん?また誘拐されたの?」
「違う。友達が誘拐された。」
「へえ、珍しいわね。状況を教えてくれる?」
一通り伝えて電話を切ります。私はこの美貌だから、幼いころから幾度となく誘拐されるというのを経験してきました。そのおかげで、警察のお姉さんとはすっかり顔なじみです。電話番号を知っているくらい。誇れることではないけど。
下手したらそこらの刑事よりも誘拐事件を経験している私が行くんだから、安心して待っててね。
それにしてもなんで誘拐なんかされたんだろう。彼女の実家は特筆するほど裕福じゃないし。
彼女と最後に会ったのは、昨日の夜仕事の都合で呼び出されたとき。その時、彼女は「先に帰ってる。」と言っていました。でも、そのあと家に帰っても彼女の姿が見えなかった。だいたいこんな感じです。
彼女はLINEで連絡してきました。ということは、彼女が居る場所には彼女のスマホがあるはずです。こういう時のためのGPS。……いや、ストーカーとか独占欲とかじゃないですから。
ということで、GPSが指し示す位置にやってきました。それによると、この路地裏の薄汚いビルの中です。
中に入ってみると、案外綺麗なバーがありました。バーテンダーのおじさんが私を見るなり少し眉をひそめていたけれど。
「えっと、水ってあります?」
「……はい。」
氷が2、3個入った水がシンプルなガラスのコップで出てきました。
「あの、女の子を誘拐とかしてませんか?」
「……何を仰っているんでしょう。」
「そのままの意味です。」
おじさんは大きな溜息をつきました。
「もう正直に言ってしまいましょう。そうです、私があの子を誘拐しました。安心してください、怪我はさせていません。」
私も安心して、小さく溜息をつきました。
おじさんは私を店の裏に案内してくれました。その倉庫の中では、特に拘束もされていない彼女が静かに寝息を立てていました。
「あの、一つ聞きたいことがあるんですけど。」
おじさんに小声で聞きます。
「なんでしょう。」
「なんで誘拐なんてしたんですか?」
「見ての通り、店の経営は火の車でして、早急にお金が欲しかったんです。」
「でも、なんでこの子を?」
「その、恥ずかしながら、人違いをしてしまいまして。本来は別の方を誘拐して、身代金でも要求するつもりだったんですが。気付いたのが倉庫に閉じ込めてからで、でも帰してしまったら通報でもされるんじゃないかと思って。でも、もうバレてしまったのなら仕方がないですしね。」
「へえ。」
「私からも質問なんですが、仮にも誘拐犯である私に対して緊張感がなさすぎませんか?」
「最初から、犯人は誘拐に慣れてない人だって分かってたので。ちゃんと誘拐するなら、連絡手段は断っておかないとダメですよ?」
「ああ、気付いていませんでした。もしかして警察の方ですか?」
「いいえ。この子、私に連絡しといて警察には何も言っていなかったみたいなんです。この子がいいようなら今回の件はなかったことにしてもいいですけど。何もされてないのは事実ですし。」
「そうですね。私もこれからいろいろやり直してみます。」
彼女を負ぶって外に出ると、警察のお姉さんが立っていました。
「あれ?大丈夫だったの?」
「うん、特に何もされてなかったし、今回はもういいよ。」
「そっかー。えっと、佐藤
帰る途中で、背中の彼女が目を覚ましました。
「あれ?外?」
「起きたの?重いから自分で歩いてくれると助かるんだけど。」
彼女は私の背中に思いきり顔を埋めてから言います。
「ようやく誘拐される側になれたんだなって。いつも誘拐されるあんたを連れ帰る側だったけど、誘拐から助けてもらう側ってこんな景色なんだね。」
「何よ、いきなり。」
「いつもより3割増しは美人に見える。」
「さいですか。」
と、こんな感じで。彼女が誘拐された話でした。
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