SIDE剣聖004_終章開幕~プレジュブナイルエンド~

 やっと人造天使部隊ダウトが出来た。

 そして奥の手である“法螺吹き”も出来た。

 

 しかし闇ギルドから生粋の天使は最早見込めないそうだ。

 またしても憎き狼少年に妨げられてしまったようだ。情けない。

 私達の村を襲った泥棒の創世はじまりはどうしてあれだけの規模だったにも関わらず、肝心な時に味方になる闇ギルドはこうなのかしら。

 

 しかもこれでモルタヴァを襲う時に、天使が立ちはだかる可能性だって出てきた。

 でも、それでよかったのかもしれない。

 何せその天使こそが、私のライを誘惑して夢の中へ落とし込んだビッチなんだから。

 

 未経験の敵とは何度だって戦ってきた。その度に帰る場所を想像して戦ってきた。

 三人で遊んだ、あの村を想像しながら気持ちで凌駕してきた。

 情報屋から天使の情報も、それとはまた別に同じくライを未発達な体で抱き着いていた令嬢の事も全部聞いた。

 

 トゥルー。

 レアル。

 貰った情報を基に、もう頭の中で一兆回は殺している。

 

 大地讃頌インテラパックスなんて唄で回復する暇がないほど心臓と脳を刺し殺した。

 虚光ハイライトなんて唄で攻撃する隙がないと手足を何度も捥いだ。

 

 私と同じ魔法剣を使う令嬢は、全ての技を出させて格の違いを見せて絶望させた。

 こっちは回復しないから、心臓と脳以外の全てを貫いた。

 

 という訳で。

 今私は、とある戦場にいる。

 

 小国の植民地のクセに、何を勘違いしたか反旗を翻した国の相手をしている。

 ああもう、こんなことをしている場合じゃないのに。

 こんなことをしている間にも、ハートっていうのは男子を静めていく。

 

 でも最近は落ち着いてきた。

 心の中で何回も、ライを取り戻すシミュレーションをしてきたから。

 完璧だ。ナイスプラン過ぎる。

 これできっと私の元に戻らない筈がない。

 

 だからこれは予行演習だ。

 救国の剣聖として使えるすべての権利を使って、私は帝国の一群を率いている。

 その中には灰色の翼をもつ人工天使部隊ダウトが、私の直属親衛隊として動いている。

 

 圧倒的だ。灰色の翼を背中に掲げた天使たちが、次々に間抜けな反逆者たちを消し去っていく。

 あっという間に、街の人間ごと消し炭にしていく。

 私はあの風景をモルタヴァと重ねて、どんどん自分がライに近づいている夢を見て……濡れていく。

 

「ライ……あなたを貶めるサキュバスは、私が全身全霊でイかすから……!」


 丁度私の下に、何人かの兵士が特攻してきたので、予行演習だ。

 全員男だが、あの忌々しい泥棒猫の顔を重ねる。

 腰から一本の剣。世界一の斬れ味を誇るエクスカリバー。

 

「ライ。よく見てなさい、この子の中身もほら、汚い」


 すっぱり縦に斬って、中身をボロボロ落とす。これなら幻滅するだろう。

 それとも……。

 

「ライ。よく見なさい。この顔のどこに、引っかかる要素があるの」


 顔面を一秒間で百回刺した。ってあ……ちょっとは顔残ってないと良く分からないか……。

 

「ライ。よく見なよ。おっぱい削ぎ落すから」


 って男だから膨らんでないので、すかっといて顎に行っちゃった。まあいいか。

 

「ってもう終わりかよ。張り合いないなぁ」


 気づけばさっきまで兵士だったものが色んな血まみれで死んでいた。

 もう制圧も終わった事だし、早く“法螺吹き”試して――ライを迎えに行こう。

 

「法螺吹きを発射用意」


 まるで世界を飲み尽くす巨大なミミズの様。

 ワームとも言えなくもないそのうねうねした曲がる筒は、植民地の首都へ向いていた。

 最早人工天使によって殆ど焼け野原だけど、試し打ちしろってうるさいからなぁ。

 

 そして法螺吹きが放たれた。

 王都が、大地ごと消えた。

 世界から音が消えた光線、着弾、そして空の彼方まで伸びる巨大な煙の樹。

 本当にここに国が、村が、大地があったのかと疑問符抱いてしまうくらいに、荒唐無稽だった。

 

 やだ、すごいわ。

 人も街もゴミのよう。

 全部、平和になっちゃった。

 

「すごいわ……〝法螺吹き”」


 これならライを掴んで離さないモルタヴァを、一瞬で無かった事にできる。

 嘘にできる。

 

 これでシミュレーションは完璧だ。


「さて、帝都に戻り次第すぐに向かうわよぉ。奪われた物取り返しに!!」



 ライ。

 だいすき。

 ほしい、ほしい。

 だいすき。

 ライ。

 

 あなたがいなくなってから。

 わたし、こんなにすごくなったよ。

 ずっとあいたくてたまらなかたよ。

 たくさん、いいたいことがあるんだよ。

 もう、わたしには、あなたしかいないから。

 

 わたしのきもち、もうわたしをおいこしてる。

 このままげんかいとっぱ、したいから。

 あなたと、げんかい、こえたいから。

 

 ずっとわたしのとなりにいるってやくそくしたよね。

 ずっと、わたしといてくれるよね。

 ずっとずっとずっとずっとずっとずっと。

 あなたは、わたしのもの。


 そもそも、ライは。

 わたしのことが、すき。

 だから、ずっとよこにいてくれた。

 かわいそうに。

 ライは、ほんとうにすきなこに、ちかづけない。


 あの堕天使と、ビッチ令嬢のせいで。

 だからライを強奪したモルタヴァと、ブス二人を存在ごとこの世から消す。

 二年前は私は間に合わなかった。

 でもこんどは間に合う。

 世界を敵に回しても、なら世界を滅ぼしてでも助けに行くよ。

 私の事好きなのに、合えないなんて、悲劇だ。

 泥棒の創世はじまりの時の様に、王国もモルタヴァも糞だ。

 これは聖戦で、正義で、正解の戦いだ。

 

 好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。好き。

 

 テルースがいなくなって、私はもうあなたがいなければ私じゃないの。

 我慢し続けてきた。でももう限界。

 はやくあなたを最強の戦士にして、二度と失いたくない。

 心を鬼にする前に、心を剣聖にして二年前のやり直しだ。

 今度は失わない。

 

 

 だから。

 絶対死ね。

 トゥルー。

 レアル。

 そしてモルタヴァ。

 


 そしてライ。

 ずっと、ずっとずっと、わたしのとなりで、すきでいてね。


「だからモタモタしてんじゃねえよ!! 早くモルタヴァをトマトジュースにするぞ!!」

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