OUTライ003_残された二人、涙と覚悟――涙編
そのままビートルの病院に担ぎ込まれたライの真ん中には、まだ禍々しい穴が残っていた。
レアルとトゥルーが最初に見た時よりも穴は小さくなっていたが、それでもまだ十分すぎる程に抉れている。
緊急手術室の中は慌ただしく、何人もの回復のスペシャリストが右往左往していた。
「ぜってぇ助けんぞ……ライ」
手術台に向かいビートルが息巻く一方、その待合室で、二人の少女が項垂れていた。
祈るように合掌した両手に、涙に塗れる顔面を置いているトゥルー。
まるで後悔する様に体育座りのまま、時々肩を震わせるレアル。
(私が……私の唄が……ライお兄さんを)
(催眠の使い手がいるって知っていたのに……私があの時油断しなければ……!)
自分のせいで、ライが今わの際にまで到達していた。
二人とも、互いに励ます余裕がないくらいに、後悔の深海に沈んでいた。
心のどこかで、隙間があった。
ライは死なない。傷ついてもきっと淋しい笑顔を振りまきながらも帰ってきてくれる。
肉体能力SSという前代未聞のステータスに、どこかで甘えていた。
魔法剣を受けても一切傷つかず、直ぐに修復する肉体に。
敵とあらば躊躇せず、簡単に手を汚してしまえる精神に。
「私のお父さんとお母さんが死んだ時、私は人間を沢山恨んだ……」
トゥルーの呟きに、ふとレアルは少しだけ目を向けた。
「でもライお兄さんがもし死んだら……今度は私が殺したことになる」
「……」
「私……多分自分が許せなくなると思う」
「私を恨んでください」
と、レアルはトゥルーの恨み節を断った。
「そもそも今回は私のせいです」
「そんな……レアルお姉さんは悪くない。だって催眠魔術なんて……」
「そういう人間がいるという情報を聞いていた時点で、何も対策を講じれていなかったのはアウトでした……それは私の役目だった」
自分を責める様に、悔しそうに自身の髪を引っ張るレアル。
「私が……あなたを危険にさらし、今ライをまさに瀬戸際に追い込んだ……私は……姉失格です……!」
「――二人ともやめなさい」
ぱし、と手を叩く音。加えて女性の声に二人ともその方向を向く。
「イリーナ……プリンス……」
二人の後頭部を撫でる様に抱きしめながら、イリーナが諭す。
「レアル様、トゥルー。そもそもライが死んだ時の話なんて、そんな弱気でどうするの」
「……」
二人とも黙って泣きじゃくりながら、頷くしかなかった。
「誰のせいでもない。あなた達は精一杯人事を尽くした。私は知ってるわ……だから後は信じて待つのよ」
横から顔を出したプリンスの手には食事が乗った皿を二人に向ける。
「超ド級のハプニングの後だっていうのに、何も食べてないでしょ。サービスで食事持って来たわよん」
「……ごめんなさい、今、何も口に入りそうになくて」
「食欲が無くても食べなさい。ライちゃんの口癖、『食事が体を作る』そうじゃない」
「……」
「自分達は万全にして、それで待つのよ。それが今あなた達が果たす責任って奴じゃないかしら」
プリンスがそう腕組をしながら進言した時には、二人はその皿を受け取っていた。
暫くして。
既に診療時間を終了したビートルの診療所。
その入口に、一人の男が訪れていた。
入口に丁度いた看護婦は、申し訳なさそうに男に近づく。
「申し訳ありません、今日の診療時間は終了して……」
「天使を連れてこい」
「はい?」
理解不能の発言を受けて、思わず看護婦が聞き返すと――その男の眼球に移った魔法陣に意識が飲み込まれた。
「
「……天使、連れてきます」
一切の自我を失い“友達”になった看護婦を見送りながら。
断崖まで追い詰められながらも、活路を見出したと言わんばかりに。
既に崩壊した髑髏の天秤元副頭領、パチは救われた様な笑顔になっていた。
消失した左腕のスーツの裾が、風に靡く。
「やだなぁ……お前を連れて帰らないと、僕が帝国に消されちゃうからね」
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