SIDE800_嘘つきが天使を救う起承転結を見た、とある死神の末路

 7歳の時、手を繋いで歩いていた姉が通り魔に殺された。

 11歳の時、手を繋いで歩いていた妹が心臓麻痺になって死んだ。

 13歳の時、両親は私と一緒に飛び下り自殺して、二人だけ死んだ。

 17歳の時、親友と呼べる奴が隣で魔物に喰われた。

 19歳の時、優しくしてくれた研究所の上司が隣で実験の爆発で塵になった。

 23歳の時、手を繋いで歩いていた妻が馬車に轢かれて死んだ。

 29歳の時、手を繋いで歩いていた娘が空から降って来た落石で死んだ。

 

 私はどうも、大事な人を殺す死神として生まれたらしい。

 そう気づいた時にはもう、私の大事な人間は跡形もなく消え去っていた。

 片っ端から夢だったように、私の前からいなくなっていく。

 

 世界を恨んだこともあったが、空しいばかりだった。

 あの時私に力があれば、とも思ったが私には誰かを守る才能が圧倒的に欠けていた。

 

 その時に一つ行きついた疑問。

 どうして人間はこんなに簡単に死ねてしまうのだろう。

 

 剣で貫かれれば死ぬ。飛び下りれば死ぬ。首を絞めれば死ぬ。燃やせば死ぬ。凍らせれば死ぬ。病気にかかって死ぬ。

 神様は何故こうも簡単に死ぬように、人を作ってしまったのだろう。

 死ぬ様に創る方が難しいというのに、何故態々手間暇かけて神様はそんな風にしたのだろう。

 試練を与えた等と言う手前勝手な解釈をする宗教家もいるが、真相は謎のままだ。

 

 だが人は死ぬという性質を持つ弱い生き物だからこそ、私の前から誰もいなくなったのは確かだ。

 だから人を進化させたかった。

 

 泥棒の創世はじまりを作り、人間の弱点を補った改造を施した人間を野に放った。同じく改造した魔物と一緒に。

 このまま死ににくい改造された人間で世界が一杯になれば、悲劇は減る筈だった。

 

 だが救国の剣聖エルーシャに邪魔をされてしまった。

 しかし私はこのエルーシャという少女が突然変異だと考え、サンプルとして彼女を捕まえようと策を披露した事もあった。

 まず彼女が出身の村を特定し、孤児院を含めた村を全滅させた。

 そこに駆け付けた彼女を全戦力で捉えようとしたが、強さの予測をはき違えていた。

 一国の一個大隊すら簡単に捻れるはずの改造人間や魔物の集団が返り討ちにあったと聞いてから、泥棒の創世はじまりが凋落するまで時間はかからなかった。

 

 しかし私は私の夢を叶える為に、王国で再起し髑髏の天秤を立ち上げた。

 王国に潜むという天使をようやく見つけ、帝国に情報を提供し、人工天使を作らせている。

 更にトゥルーという生粋の天使をもっと間近でサンプリングすれば、“もう誰も死なない世界”にできるのかもしれない。

 その結末が世界の破滅で、人類が今度こそいなくなったとしても、それはそれで“もう誰も死なない世界”になるから問題は無かった。

 

 “法螺吹き”の設計図まで提供したのは余計だったかな。

 しかし帝国に運用してもらう事で、また新しいサンプリングが欲しかったのだ。

 

 そしてあと一歩のところでまた打ち砕かれた。

 もう、疲れた。

 人が死ぬというマイナスの価値しかない、ただの生き残りにしてはよくやっただろう。

 

 また救国の剣聖エルーシャの様な、存在が立ちはだかるのだ。

 狼少年、嘘の怪物、例え方すらわからないイレギュラー中のイレギュラーが立ちはだかるのだ。

 どうやら運命という曖昧なものは、私から死神という属性を拭う気はないらしい。

 

「殺す前に聞きたい事がある」


 修復が始まっているとはいえ、その速度では失血には間に合わんぞ。

 よくやるもんだ、と思いながら私は聞いた。

 

「俺はライ……お前ら泥棒の創世はじまりに殺された村“ピクトスカイ”の生き残りだ」


 ああ、そういえば救国の剣聖を釣るために滅ぼした村に、一人だけ生き残りがいると言っていたっけ。

 ライ……そうか。

 この少年か。

 

 なるほどね。

 更に救国の剣聖が狂ったという情報も加味して納得した。

 どうやらこの嘘の様な怪物を創り出してしまったのは、私のようだ。

 

「覚えているか」

 

 でも私は何となく、最後の嘘をつきたくなった。

 

「いいや。知らないね。一々そんなものに抽出する価値はない」


「そうか」


 些細な希望が打ち砕かれた様な笑いを放ち、更に血を放ちながらも私の頭を掴んだ。

 走馬燈は走らない。走っても面白いものはない。

 人が死んでばかりの人生だった。

 

 そして耳にしている帝国の動向から、彼ら、彼女らに待ち受ける近い未来も予想がつく。

 ここで死んでおけば、私に利用されておけば良かったと絶望する未来も近い。

 何よりライという狼少年はどう見ても致命傷だ。

 もう彼に、未来はない。

 

 なのに、別に自分の命に価値などない。

 後ろの少女達を守れたからもう満足だ。

 そんな文字が顔に書いてある。

 

 ああ。

 どうやらライというこの少年も、私と同じか。

 

「向こうで待ってるよ」

 

 頭が潰された。

 潰える思考の中で、私はようやく一つの解を導き出して、世界にさようならをした。

 

 これでもう、私の周りで誰も死なずに済む。

 素敵な事だ。

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