第35話 「お前が悪い」「お前が悪い」「お前が悪い」「お前が悪い」「お前が悪い」「お前が悪い」

「狼少年……!?」


 モルタヴァのとある建物から、ある行動をすることで開く地下への道。

 俺は黒いローブ、黒いグローブ、鉱石のブーツを身に着けて髑髏の天秤に辿り着いていた。

 魔物退治と違う点は狼の覆面を付けている事。

 それ以外は同じだ。

 最初に出会った髑髏の天秤のメンバーにこう質問した。

 

「トゥルーとレアルはどこだ」


「お、狼少年だ! 狼少年が攻めて――」


 警告はしない。だからその男は何をされたのか分からなかっただろう。

 少なくとも壁の染みとなった脳の一部では。

 

「野郎遂にここまで……!」


 少し開けた場所に出ると、今まで見たことのない人数の黒衣達が一斉に襲い掛かって来た。

 見るだけでも数十人。奥にはもっといるだろう。

 剣やら槍やら、更には魔術やら。まるで一介の一個中隊の様に迫って来た。

 

 だが、俺が聞くことは一つだけ。

 

「トゥルーとレアルはどこだ」


 その中心に、正拳を炸裂させた。

 直撃したメンバーは挽肉となって散り、周りのメンバーも悉く吹き飛ぶ。

 何人死んだか数えている余裕もないので、次に進む。


「か、怪物だ……」

 

 質問に答えられない奴らしかいない。そんな所に興味はない。

 途中色んな魔術を受け、斬られ、殴られ、突かれ、刻まれ、焼かれ、絞められた。

 

「トゥルーとレアルはどこだ」


 しかしそんな事はどうでもいい。

 一つ一つも面倒なので一気に薙ぎ払い、部屋が肉片のピースと深紅のヘドロで一杯になっても構わず進む。

 沢山の命が目の前で散らばっていく。

 だが俺はもう、人間じゃなくていい。

 俺は狼少年という、嘘つきの怪物だ。

 未来を変えるためだったら、あの二人を守る為なら俺は何にだってなれる。

 傷つける側にも、傷つく側にも。

 それが二年前、テルースを見殺しにした俺に許された、たった一つの変わらない役割だ。


 その結果、黒衣のメンバーたちは蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。

 そんな奴らのうちの一人の後頭部を捕まえて、聞く。


「トゥルーとレアルはどこだ」


「助けて! 助けて!」


 壊れた絡繰り人形の様に叫ぶしかない男を適当に投げ捨てる。

 とにかく進むしかない。進んでいればいつか――。

 

「あぎゃあぎゃあぎゃ……お前が狼少年か」


 次の部屋に進もうとしたら、扉の枠が破壊された。

 扉の枠以上の巨大な紫色の魔物が立ちふさがっていた。

 否、人の言葉を話せるとなると、こいつは人間か。

 人体改造を受け、魔物以上の肉体能力を得た改造人間だ。

 

「小さいな、そして細そうだ。こんな奴に好き放題されるたぁ、髑髏の天秤も大したことはねえな」


「……改造人間か」


 改造人間。この技術を生み出し、かつて帝国を飲み込もうとしたギルドを俺は知っている。

 

「お前、泥棒の創世の生き残りか」


「あぎゃあぎゃ……だったらどうした」


「聞くことは変わらない。レアルとトゥルーはどこだ」


「あぎゃあぎゃ、お嬢様ならこの先だぜ、あぎゃあぎゃ」


 レアルはこの先か。

 

「あぎゃあぎゃ、で、何で再会できるなんて思ってんだ? 実力差って言葉知ってるか? 今からお前は覆面の中身を頭蓋骨含めてさらすんだぎゃあああああああああ!」


 紫の掌が迫り、床が簡単に貫かれた。

 とはいえ俺はその腕の上に立ち、あぎゃあぎゃ煩い改造人間の首元を蹴る。

 首を視点にくの字。


「あぎゃ、あぎゃ……だぎゃ……おじえだ……のに……なんで……」


「道を塞いでる、お前が悪い」


 泡を吐きながら現在進行形で絶命していく巨体だが、それでも邪魔なので蹴り飛ばす。

 横で何人か潰れた気がしたが、気にしない。

 後ろから魔術を放たれて、何個か直撃しているが気にしない。

 さっきの改造人間が破壊した瓦礫を数回投げたら沈黙した。


 この件、まさか泥棒の創世の残党が関わっているのか。

 ……一瞬、仇を取るなんて感情が頭をよぎったが、それよりも魔王の様に俺の頭を支配する何かがあった。


「トゥルーとレアルはどこだ」


 進んでいくと、レアルはまだ見つからなかった。

 代わりに広大な空間に出て、さっきの改造人間よりも巨大な恐竜が聳え立っていた。

 魔術やら魔石やら薬剤で超強化されている。SSランクで間違いない。

 魔物を操るテイマーらしき男は、鞭の音を鳴らしながら長いまつ毛の三白眼で睨みつけてくる。

 

「貴様……龍王を倒したそうだな」


「どけ。無駄話はする気はない」


「龍王はこのプラキオレイドスが倒す手筈だった。精霊を素材にできればさぞ更に最強の魔物が出来上がるだろう」


「知らねえよ」


 こいつも泥棒の創世か。

 人間の改造、魔物の改造。どれもこれもかつて人体科学者であったエイトハンドレッドという頭領が創り出した技術だ。

 この技術で、泥棒の創世は帝国を掌握しかけた。

 

「だが、ならば貴様を喰らえば龍王を倒したことにもなる訳だ」


「レアルはこの先か」


「いけ! プラキオレイドス! 煮るなり焼くなり喰うなり好きにしろ!」


「魔物と話し過ぎて人間とのコミュニケーション忘れたのか」


 そう言っていると、プラキオレイドスと呼ばれた恐竜から藍色の炎が吹き荒れる。

 一方の俺は跳び、恐竜の鼻の上に着地がてら一発放つ。

 全力全開の、一撃。

 十メートルはあるであろう位置から顔面が床に叩きつけられた。

 

「なんっ……!?」


 そのまま自由落下でプラキオレイドスの上に着地。その際に込めた両足の脚力で、完全にプラキオレイドスの脳を粉砕。

 変形し、何もかもが飛び出している恐竜から飛び降りて、テイマーをもう一回見る。


「え、えええええ……!?」


 驚愕するテイマーに、俺は言い捨てる。

 

「龍王は自分で意志を持って動いていた。どんなに改造しようが、ただの人間様に操られてる時点で同じSSでも天地の差だわ」


「そ、そんな……」


「お前みたいなのと龍王を会わせなくてよかった。龍王が人間に絶望するところだった」


 最早慌てふためくしかないテイマーの胸倉を掴んで、聞くことを聞く。

 

「レアルはこの先だな」


「そ、そうだ」


「トゥルーは」


「し、知らん……天使は俺の管轄じゃない」


 知らなさそうだ。

 思わず舌打ちをするしかなかった。


「そうか……」


「喋る事は喋った! 助けてくれ旦那……」


「そうだな。さっきお前の魔物、あっちで全部倒したもんな」


「馬鹿な、予備の魔物達も皆殺しにしたというのか」


「やっぱり他にもいるのか」


「あっ……」


 俺は勿論魔物を殺してない。プラキオレイドス以外知らない。

 しかしこいつはまだ他にも飼っている可愛いペットがいるというのだ。

 このまま離せば、戻る時に脅威になるかもしれない。


「まだ戦力持ってんじゃねえか。じゃあこのまま見逃しは出来ないな」


「えっ」


「お前が悪い」


 ぶん投げた。

 天井に激突し、床に衝突したテイマーはプラキオレイドスと同じ末路を辿った。

 

 

『レアルなら次の部屋だよ』


 突如空間に響いた声。

 咄嗟に俺は動いた。罠だと分かっていても、今の俺にはそれしか手掛かりがないからだ。

 

 レアルがいた。

 ただしいつも俺に向けていたクールを装いながらも、光の差し込む隙のある愛らしい瞳ではなかった。

 まるで心を奪われた様な、人形としてのレアルだった。

 

「こんにちは。“狼少年”君。お友達取り返しに来たんでしょ」


 奥でスーツを身に纏ったパーマヘアの青年が、余裕そうに頬杖着きながらニッコリとした笑顔で言うのだった。

 

「じゃあ君も僕の友達になればいい」

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